永遠の「犠牲者」たるヒロイン
原節子やリリアン・ギッシュ、ジーン・ティアニーに(現在のパワー系美熟女の姿が信じられない)ロビン・ライト、ジャネット・リー・・・よく考えたらこのブログを最初で取り上げた映画ほどクラシックといえる名作でしかも存在自体が超難解なヒロインばかりだったのに何故よく考えずに「なんだか不運な女」とまとめてブログアップしようとしたのか今振り返ると自分でも分かりません。とにかく共通するのは彼女たちは全員とことん悲劇的で映画のなかでひたすら犠牲者だって事。「早春」も今回名前だけは30年前くらいから知っててやっとこの間早稲田松竹で観たばっかりでした。しかしヒロインのスーザン(ジェーン・アッシャー)は前述した不運な女達の中でも最も酷い目に遭ってますね。なんせ映画全編にわたって童貞の少年マイケル(ジョン・モルダー・ブラウン)中年高校教師(カール・ミカエル・フォーグラー)スーザンの婚約者(クリストファー・サンドフォード)と三人の男どもの性欲の的にロックオンされてしまって、あげくの果てにはDEEP END に血まみれで漂う・・・姿で映画終わるんだもの。さすがオフィーリアを生んだ英国映画のヒロインと言ってもいいのかな?でも脚本書いて撮ったのは現在ポーランド映画界を代表するイエジー・スコリモフスキが冷戦時代に亡命していた英国で制作しました。かのポランスキーとは永年の友達だってさ。(苦笑)
思春期の少年がひたすら「年長の女達にセクハラ」される話(21世紀基準による)
早稲田松竹にはいつもシニア男性が来ていてこの映画もとりわけ観客が多く、マイケルの出くわす熟女たちのお色気攻撃や性の悩みに悶々とする姿にゲラゲラ笑っておりました。でも主役のジョン・モルダー・ブラウンって子役出身の美少年(この後ビスコンティのルートヴィヒ デジタル修復版 [Blu-ray]に出演したくらいだよ)ですからね、スーザンも含めて雇い主の公衆浴場のオーナーは(立派な事を言ってるけど)若い従業員の容姿で楽ちんなビジネスやりたいだけだったのかもしれない。マイケルはいきなり中年女性客(ダイアナ・ドースと言ってUKのマリリン・モンローと評されている)に襲われるし。彼女は演技派のセックスシンボルとして有名だったのでガチで怖い、男からしても怖いのじゃないかな。スーザンはぱっと見マイケルを手玉に取って翻弄しているような様子にも取れますがおそらく彼女としては真面目に教育しているつもりなんだと思いました。多分マイケルの前の男の子たちもすぐに辞めていったのではないのかな。ただ彼女はマイケルに本当のところ何を教えたがっているのかが謎。実は彼女自身もよく分かっていないのかもしれないけど。ヒントとしてはマイケルは学校が退屈で中退してしまって十代で勤労始めた所謂労働者家庭の子だけど、穏やかに育っていて「ママが大好き」って未だに普通にやってしまうようなヤツ。対してスーザンは母親を亡くしたおかげで非常に不安定な心理状態で十代を過ごしていたっぽいという事でしょうかね。
Would you like to play a Foot Ball ?
マイケルはスーザンに徐々に煽られて彼女を追っかけ回して半ばストーキングをするようになる。でもあんまりスーザンはマイケルの振るまいを気にしない・・・というかどうも詳しく把握していないし、マイケルの行動の意味が理解出来ないんだよね。真剣に自分が求められているとはどういう事なのかが彼女には分かんない・・・まあ理解出来なくてもしょうがないよ、これまで男性に大事に扱われた経験がまずスーザンには無かったから。スーザンと不倫関係にある教師(マイケルも教わっていた)ってのが酷いヤツで自分はスーザンの勤務先でやることやってたのをマイケルに見られたのに気づいて「彼女は公衆浴場の客相手に売春している」って平気で嘘つくような男だもん。(映画見る前に読んだんですけど「早春」を批評したブログの書き手は教師の言うこと真に受けてホントにスーザンはチップで売春してると思ったようですが)そもそもスーザンはセックスすらあんまり好きじゃないんだ。婚約者とのセックスで自分がそうだって初めて気がついた。でなきゃ婚約者に連れて行かれる映画が「性生活の〇〇」なんてスウェーデンのドキュメンタリーなんてなワケないでしょ。不倫相手と婚約者じゃセックスするのにも彼女に求めるものが全然違う。一回りほど年上の婚約者はちょっと強引だけど彼はスーザンの事が自慢だし彼女の主張をある程度聞き入れてくれて待っててくれる。映画途中までだとスーザンと婚約者が何を揉めているのか私には分からなかったけど、スーザンは女性としての自分にあんまり「自信」持ってない、自分が大切に扱われて当たり前だってのが信じられない・・・スーザンの心理の過程をそうやって推察してみるとマイケルが寄せてくる自分への憧れも彼女にとっては癒やされるものかもって気がしてきました。
(スコリモフスキが描く)1970年代夜のLONDONには「小ネタ」がいっぱい
中盤スーザンが婚約者とデートしに、それをマイケルが追いかけていく時に描写されていく70年代ロンドンのナイトシーンも興味深いです。比較的裕福な若い人達が行く会員制のナイトクラブやクラブのすぐ近所にある風俗店(というか売春の店舗)、その前にあるホットドッグの屋台・・・とかなりカオス。その辺を風俗客のオッサン達やオシャレなカップル、スキあれば誰かに奢って貰おうとする十代の女の子達だとかw。風俗店には若い女性の等身大の看板があって顔はスーザンにすごく似ているけど彼女より巨乳であったりするとか。んでまたその看板をマイケル盗んじゃうとかw。風俗店では若い美女の等身大の看板で客を呼ぶんだけど店内の女性は皆看板よりぐっと太めのオバちゃん世代が中心だから盗まれるとえらい迷惑だったりするだとか。ホットドッグの屋台はイレブン・ミニッツ [Blu-ray]にも登場しててワルシャワの屋台店主もくせ者親父だったけど、ロンドンの屋台を仕切っているのは「やたら快活な独自の接客スタイルを貫くアジア系のイケメン」(クレイジーリッチに出てくるヘンリー・ゴールディングの親父か?ってゆうぐらいに似てるっww)で、要は屋台よりも背が高いからマイケルと目を合わせて接客するたびに屋台の柱をくぐって顔を出すって動きを繰り返すだけなのに、もの凄くおかしいの。もうカッコ良いホットドック屋の兄ちゃんが顔を向けてくる度ごとにカンフー達人だとか板前だとかやってるキビキビしたアクションこそがアジア系男性のかっこ良さのキモなのかもしれないって思いつつ、でも笑えるっていう演出。これを現代では蔑視とみるか、リスペクトを込めて異なる人種の個性を見い出したさすが伝説のカルト映画監督の先見の明なのかは断定できませんが、是非見て欲しいです。
ポール・マッカートニーの元婚約者
ジェーン・アッシャーについては日本でだとポール・マッカートニーと婚約して結婚寸前で分かれた・・・ってのが一番広く知られていますが、彼女自身はポールよりずっと「良いとこの家」で育ったお嬢さん。家族は両親が音楽教育を教えていて妹は舞台女優、彼女自身も演劇学校でしっかり学んだ女。だからスーザンの役柄についても取り込まれずに自分の中で消化して演じる事が出来たと思います。当時の若い女優さんだと役柄の境遇があまりにも自分に近すぎると演技と日常が分離できずにパニックを起こす事もあるので、かなり悲惨な境遇の役を比較的上流階級出身の方が演るケースが多かったみたい。ゲラゲラ笑っちゃうエピードの後にスーザンが不倫相手と対決して今まで彼女の身の上に起きた事がうっすらと解ってきてそれまで笑ってたオッさん達は皆青ざめてしまう。不倫相手のオッさんは終始暇なわりには良い車に乗ってたりやたら洒落た格好している気がしましたが、コレも奥さんの実家が裕福で尻に引かれてる日常の鬱屈を紛らわす為だけにバージンで十代の女学生ばっか狙ってたんだなってのも感じ取れます。そしてやっと一見落着と思えた瞬間に悲劇が起きる。何故にこんなラストになんのかなあ?って考えてしまいますが、かのロリータ (字幕版)と双璧と捉えても良いかなと。思春期の少年少女が性の興味に捕らわれて身動き出来なくなるのは自然なことかもしれませんが、相手が少年少女よりも圧倒的に年長者なのは問題が多い。なんと言っても対等な関係ではないからね。スーザンは過去の自分が被った性被害を今度はマイケルに対して行ってしまった、スーザンとしては優しさだと思った事がマイケルにとっては超残酷な体験でしかなかったの。だって上手くいかなくてマイケルは「ママ・・・」ってしくしく泣くんだもん。女の子が貞操を失いそうになった時に「ママぁ」って叫ぶのが定番だった時代があったのね、かつて。それとおんなじだって暗に言ってるシーンなんだよ。だからフェミニストに限らずいろんな人に「早春」て映画は今こそ観た方が良いって言いたい。私も長いことビビってたけど観に行って良かったわ。
んでこの映画1970年に撮ってたそうです。丁度この頃にクイーンにフレディ・マーキュリーが加入しました。5年後にボヘミアン・ラプソティーで「ママ、僕人を殺したんだよ~」って歌うんですが、映画のマイケルはまさにこの唄のまんま。
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