最後に面白かった日本映画を語るよ
日本映画の表現の幅を広げる為に奮闘している映画です、そこが2022年公開の他の日本映画と比べても突出していました。だから観客受けも良くヒットして「何だか解らないけど面白い」という映画評を集めた作品。主人公のライター(稲垣吾郎)が冒頭から喫茶店で時折水の入ったガラスのコップを日の光ですかして眺める・・・といういかにも文学青年ぽさが抜けきれない行動を繰り返すシーンが登場しますが、お洒落表現としてやっているわけではありません、むしろ主人公のそして映画製作者の苦闘に表現だったりします。ストーリーとしてはウンザリするところが多々アリ、特に不倫をする主人公の親友が全く現役アスリートに見えないなどの不満もありなのですが、最後に登場人物の一人が「不倫なんてクソだな」と発言するのでスッキリしました。主人公は1度だけ短編集の小説を出版したきり小説家としての筆は折ってしまい、そこが編集者の妻(中村ゆり)との確執や男女のすれ違いを生んでいるというのが映画のキモです。妻に愛人がいても怒らない夫・・・というのも夫自身の思い込みに過ぎないというのも表現されてますので安心してください。しかしながら日本映画で都市生活者の生活を軽妙に描くのがかくもこんなに難しいのかという事に思いをはせるとため息しかでないです。
宮沢りえさんの代表作になることは必至で、窪田正孝さんにとっても映画賞取ったのはこの映画の演技も対象になったかも。政策秘書(窪田正孝)の役割とか彼自身の矜持とかを理解できると映画の中の代議士事務所の在り方や秘書達(小市漫太郎、内田滋、草川直弥ら)の行動パターンも解ってきます。惜しむらくは唯一の女性秘書(内田滋)が世襲の候補者川島有美(宮沢りえ)に対して同性なのに同情がやや足りない様子な事、内田さんの演技も良かったので惜しい。その方がリアリティがより増したかもしれません。
気の毒なことに観客の手応えを感じた一般試写会のせいで都心部の映画館では興行時間がレイトショー中心にされちゃいました。かなり構成もまとまっており野球を知っている人も知らない人も楽しめる作品、野球をやっている米国の人でも充分鑑賞に耐えられると思います。部活動ゆえに丸刈りされてしまう若者たちの姿は理不尽でexoticなのかもしれませんが、同年代の学生の中でも最も運動能力の高い連中が野球部のみに集い野球というゲームの枠内でのみシノギを削る姿はGlobalに狂気を感じるからです・・・そして全力で青春をかけてしまう高校生が大好きな日本人の感性(元ロッテの里崎さんみたいな人、映画に特別出演しています)も感じられる映画でした。
「甲子園に花束を」と同様に本屋大賞を取った原作小説がかなり優れており、想像した以上に映画向きのストーリーだったんだなと感心しました。水墨画というかなり地味で観念的な映像表現になりそうな素材だと観る前に想ってたんですが、横浜流星、三浦友和、江口洋介、清原伽耶、といった面々がそれぞれ水墨画にのめり込んでいる姿は全く浮き上がらず、芸術をモチーフにした映画として成功してました。むしろ家族をいっぺんに無くしてしまった主人公の悲しみの方向性がリアル過ぎるが故に皆の想像の先を行っている為なのか映画スタッフが飲み込み咀嚼していくのにとても苦労した脚色の感じがしました、それが惜しいです。主人公の青年が家族の死に向かい合う中で年少の妹の死に一層のショックを受ける姿やまるで我が身に起こった出来事ごとくパニクりトンチンカンな支援をし続ける親友(細田佳央太)も自然な感情の発露だと先ず踏まえてストレートに芝居を作っていけばさらに爽やかな映画になったと想いました。