お祓いされる女⑥ 「スウィート17モンスター」のヘイリー・スタインフェルト

 

 原題の「Edge of Seventeen」のままの方が

 この映画の場合は良かったんじゃないんですかねっ。第一に「スィート17モンスター」じゃ言いずらいし字面が良くないよ。なんでコレなのかな?としばし考えたのですがおそらくタイトル決めた人は主人公のネイディーン(ヘイリー・スタインフェルト)を一種の悪女、それもド天然の・・・に捉えていたのかもしれません。興行収入はそこそこでしたが批評家にはウケてトロント映画祭では観客賞を取りました。今の日本の女子高生からみたらどんな反応なんでしょう・・・となるのは、今どきの日本の十代を取り巻く環境から見ればヒロインの行動は痛いというよりはかなり危なっかしく、よくこんなんでどっかのオジサンや不良男に騙されたりつきまとわれなくて済んでんなあ、と驚く事も多いからです。よく考えたら地雷原を運良くくぐり抜けて少女が大人の女性になっていく物語が存在しているのがハリウッド映画の強みの一つかもしれません。制作者のジェームス・L・ブルックスはオスカー作品賞も手がけたハリウッドでは超有名プロデューサーで脚本監督のケリー・フレモン・クレイグのデビュー作。女性監督ですが彼女を取り巻く三人のイケメンであるネイディーンの兄(ブレイク・ジェンナー)、同級生のアーヴィン・キム(ヘイデン・セットー)、ネイディーンが片思いするニック・モスマン(アレクサンダー・ヤルヴァート)の描き分けが秀逸でした。このおかげでネイディーン担任教師ブルーナー(ウディ・ハレルソン)の親父な個性も活きるのさ。

昔、私の知ってた娘がネイディーンそのまんまだったの

 彼女は17歳ではなかったんだけど、ネイディーンと同じように兄貴が居て彼女の家族仲良くて多少ファザコン気味だった。そのおかげでどうして口を開くといつでも下ネタ全開になるのかだけは謎だったが。ネイディーンも毎日のように親友クリスタ(ヘリー・ルー・リチャードソン)と下ネタトークばっかりしてて学校では当然浮き上がっている。彼女のクラスメート大半に言わせると服装がまずダサいし何より子供っぽいらしい 。ネイディーンのお気に入りのスタジャンは男っぽいというよりまるで小学生の男子がカッコ良い~と喜びそうなワッペンがいっぱいくっついているヤツ。彼女にしたらそれはポップでオシャレなスタジャンなんだけど周囲には伝わらない。ネイディーンは自分では他の平凡の子達とは違う個性的なセンスを持っているという自負があるのでソレを解ってくれそうな(学校でも超然とした雰囲気の)ニックに憧れていて、同じクラスの優等生だけどもやや気弱なオタク気味のアーヴィンと仲良しなのだ。彼女の環境に何か「闇」が生じたとしたら13歳の時に父親が突然死したこと、そして一つ上の兄が親友のクリスタと電撃的に交際を始めたてことさ。

ひたすらに「明るいだけの家族」にだって闇もありゃ危機もある 

 父の死後一家の経済を支えている母(キーラ・セジウィック)はまた自分の新たなパートナー探しにも必死。んである日泊まりがけのデートに行くために家を一晩開ける事になってネイディーンと兄ダリアンと二人で留守番するんだけど、お互いに友人を家に夜遅くまで引き留めて競い合うように飲酒して騒ぐ。んでクリスタと一緒に一晩飲みあかして二日酔いになったネイディーンはクリスタとダリアンが一緒にベットインしているのを目撃して激しいショックを受けてしまう。兄貴の方が学校でも優等生でしかもイケメンなんでとっくに彼女がいてもおかしくはなかったんだけどネイディーンにとっては親友の裏切りだしキモくて受け入れられないのだ。コメディタッチで軽く展開しているように一見みえるけどかなり異様なんだよこの設定。クリスタは「何だか解らないけど彼とそうなってしまったし私は交際を止めない」てネイディーンに告げるしね。以前はネイディーンと一緒に妄想過剰な下ネタトークや兄貴への悪口言っていた彼女は一夜にして自分よりはるかに「大人の女性」になっちまった。その夜以来ネイディーンには完全に居場所がなくなってしまう。

「妄想」から「クリアすべき課題」にシフト

  というわけでネイディーンが一見暇そうな教師のブルーナーにしか相談出来なくなってしまうのが映画の冒頭部分。USの高校では教師と生徒が一対一でカウンセリングするのが普通の事なのかは知らないが、誰も私の話を聞いてくれないので先生にひたすら話してみたという女の子の話は日本でも聞くので偶に居るのだろうこの手の娘。家に帰ってもやることが無いからアーヴィンに電話してみたり、彼の住む豪邸で遊んでみたり夜の遊園地に行ってデートしてみたりする。しかしネイディーンって娘には異性に警戒心がまるっきり無い。何故にこれほどまでに無いのか?家族は母以外に死んだ父と兄貴しか存在せず昔っから自分に危害を加える危険な異性というものを知らないからなんだろうか。でも実際のところネイディーンはどっかで実の兄貴の事は「警戒している」んだよ、無意識のうちにだけどね。ネイディーンは本来思春期ならば当然通る「男親を忌み嫌う」時期の真っ最中なんだけどそれを兄貴へ向けている。ただそれは一個上だけの兄貴当人にはもの凄く負担なんだ、だって自分だって妹以上に内心悶々としてるのだから。でなきゃ妹としょっちゅう一緒にいる幼なじみの女の子とどうしても付き合いたいっ、て思い詰めたりなんかしないよ。この兄貴どうして自分の母親と妹を守る事ばかり気にかけて自分の将来は後回しなのか?って所は気にはなるんだけど・・・(やっぱり女性からみた男性像だからなのかな)でも意外とこの手のタイプの若い男の子は多いとは私も思うんだ。んで、彼らは恵まれていない部分もあるのにあまりソレについては悩まない。彼女やら家族やらを起点にして将来設計する気しかないって分気楽で居られるというのもあるのかなあ?

ネイディーンをとりまく男子

 思春期前期に父親が急死してしまったせいで、かなりのファザコンになってしまったネイディーンの事を気に入る男子は何故か兄貴、というより父親そっくりなタイプだったりするのですよね。自分にちょっかい出してきて甘えて振り回してくれるのが嬉しいってヤツ。アーヴィンて男の子はアジア系のお坊ちゃまで両親共働きで夫婦二人で出張に出かけるのに一人で数日留守番してても大丈夫なくらいに自立している。デカい屋敷に住んでてジャグジー温水プール着いているとか。学校にいるときはオタクのような地味で内気な振る舞いをしてるけど実態は王子さまです、でもネイディーンには「あなたってgentle/おじいさんみたい」と言われちゃう。(字幕では確か年寄りとかジイサンみたいって訳で出てました。今の米国だとホントに十代の男の子へgentleて言うとショックを受けるのかもしれないのですが)ぶっちゃけ真面目な兄貴にも人種が違うだけでそっくり。彼女が片思いしているニックに至っては、実は三人の男どもの中では最もオタク度が高くて内気で子供っぽい。不良ぶってるけど不良でさえない。だから彼女はもの凄い地雷源を知らない間にすり抜けて大人の第一歩を踏み出して映画は終わります。殆ど些細な葛藤で丸く収まるのが奇蹟のよう。しかも兄貴と妹は互いに協力しながら二人とも父親不在の危機を乗り越えていたというのも最後に理解が出来るという。それから父親の代わりを堂々と担うブルーナー先生とかね。まあこんなの今の日本じゃ有り得ないわゎぁぁ・・・って感動したりもしますが、同じような兄貴と妹の家族ドラマでヘレディタリー 継承 [Blu-ray]なんて映画も最近のハリウッド映画のヒット作にはまた有りますから、家族の持つ明るい希望とどす黒い闇との対比と双方距離の「近さ」にもまた私は思いをはせるのでありました。