GOALを目指す女 ①  「フリー・ファイヤ-」のブリー・ラーソン

 

フリー・ファイヤー(字幕版)
 

「GOALを目指す女」について

 ついにアベンジャーズ「エンドゲーム」が公開されめでたく大団円したのですが、その直前にぶち込まれて公開されたのがキャプテン・マーベル MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー+MovieNEXワールド] [Blu-ray]。私は近所のシネコンで観に行きましてスクリーンの前方に何故だか30代くらいの女性が座り、ブリー・ラーソン/キャプテン・マーベルが活躍するや一人熱狂して大仰にリアクションを始めだしたので些か驚きました。いやぁ・・・イマ平日の昼間の上映回だしお嬢さんもわざわざこんなマイナーモードの中でアジって周囲の暇なオッサン&ジイサン達にマウントするのどうなのか?て、戸惑いも覚えたりして。最近は一部この手の「主張するユーザー」が劇場内でちらほら観られるようになり、まあそれも劇場で映画鑑賞する際の楽しみのひとつになれば良いのかもしれませんが。てなことで↑の映画を紹介する際に最初は「HEROになる女」てのを考えました。・・・でも待てよ?私の映画評ブログで「女でもヒーロー」なるシリーズをやって観てきた映画集めてはたして面白いのかしらん?と。だって私はこれまでも映画の登場人物の行動/action, behavior にしか興味の無い人間だったじゃなあい。ヒーローなんて抽象的かつ後付でいくらでも言えちゃう事をテキトーに語るよりも女達がどう動くのかについて語りたいの。だからGOALを目指す女。以前「ぶらぶらする女」って日本映画のシリーズでまとめたんですが、ドラマツルギー/構成のあり方が日本とハリウッドじゃ異なるといおうか、はっきりした目標もなくぶらぶらする女性キャラというのはハリウッド映画ではまずお目にかかりません。それは一体何故なのかここ数年疑問だったので日本映画の「ぶらぶら」に対抗して日本以外映画に登場する「GOAL目指すぜ」の女性キャラについて取り上げるという事にしました。

 ブリー・ラーソンはずうっと「闘う女」

 そう彼女はキャプテンと呼ばれる前から闘う女で。↑の写真でも見る通り武器が似合う女なのが彼女なのだ。そしてルーム スペシャル・プライス [Blu-ray]で主演いきなりオスカーをゲットした時から、何かと闘う事が「母性」へつながるという展開になってしまうのも彼女。闘いに参加するのを許すけど、そこで君は一体何を「守るの?」というのを問いかけられているんだとも言えるのかな。・・・しかしB・ラーソンに向かってひたすらそう問いかける男どものしつこさって異常な気がするんだが、とにかく全篇にわたって紅一点のギャングである彼女に「今何してんの?それどんな意味あるの?君が一番大事してるモノって何?」とずーっと絶妙なタイミングで男どもが話しかけている映画であります。製作がマーチン・スコセッシハイ・ライズ[Blu-ray]を撮ったベン・ヴィートリーが脚本監督しています。で、この映画、銃撃をくらった人間が死ぬのってじつの所案外時間がかかるらしいという点に着目して、ギャング映画でよくあるおきまりの銃撃戦シーンだけでまるまる一本映画出来上がるのでわっ、やってみようよというアイデア先行で企画されたそうです。キャストが完全に決定してから脚本が役者に合わせて練り上げられたそうで、一旦ヒロインに決まったオリビア・ワイルドからラーソンに変更された段階で映画の中のヒロインの役割が変ったというか、彼女じゃなかったらより男性中心の映画という印象がしてたもしれないと思いました。

簡単に状況だけ整理しましょう。

 真夜中の倉庫の内で10人の男女がひたすら撃ち合いをするだけの映画なので。登場人物の構成は3チーム+フリーランス1名に分かれると思ってください。んで、舞台は70年代後半の北米にあるどこかの港町・・・だと推測されますw。(でも製作はほぼイギリスで実質ヨーロッパ資本のハリウッド映画と言って良いんだけどね。)チーム1はIRAのメンバーのクリス(キリアン・マーフィー)とフランク(マイケル・スマイリー)、何せアイルランドから来ているくらいですから10人の中では比較的ラリっていない人達、彼らに銃器の購入の仲介をしてあげるのがジャスティン(B・ラーソン)でクリスはジャスティンの事は好き♡、というのは映画冒頭で抑えておこうw。チーム2は地元のアイルランド系ギャングのバーニーとスティーボ(サム・ライリー)、ティーボはヤク中の危ないDV男です。チーム3はヴァーノン(シャールト・コプリ)を頭とする多国籍の武器商人グループ5人組、元ブラックパンサーのマーティンやアーミー・ハマーが演る伊達男オード、ヴァーノンの右腕ゴードン、そしてアイルランド系で元々港町出身のハリー(ジャック・レナー)。ジャスティンの仕切りによりチーム1のクリスはチーム3のヴァーノンから銃器の購入をし、チーム2のバーニー達が用意した倉庫で取引をしようって集まった。特に銃器の取引については揉める要素がなかったんですが、ヴァーノンの手下のハリーがスティーボの顔を見て「自分の従姉妹をバーでナンパして断られた腹いせに暴行した」野郎だと気がついてブチ切れて二人が大げんかすることになり、そのうち10人全員で銃撃戦勃発というコトにぃ。

女の「堪忍袋の緒が切れる」時を描くのが秀逸

 映画の時代設定は70年代半ばですが「フリー・ファイヤ-」はさすがに21世紀に製作されたアクション映画(そして当初はより蠱惑的なイメージのオリビア・ワイルドがキャスティングされた事からもうかがえるように)でなおかつ悪女が登場するフィルムノワールぽい側面があってもよさそうなモノです。ま、実際に裏切る女とそれでも未練がある男が登場はいたします。しかし脚本にエイミー・ジャンプという女性も加わっているせいか、ノワール的な男女の対立の描き方がやたらドメスティックなんで笑っちゃうになってしまうのですね。延々と続く銃撃戦のきっかけは「血の気の多い」アイルランド系の男達の喧嘩でジャスティン以下、ヴァーノンやクリスには全く関係が無いことに一見巻き込まれているようなのですが、ひたすら忙しないガンファイトの中で潜在的な対立とか各々に溜まっているフラストレーションやら偏見&言いしれぬヘイト/憎悪が露わになってくるのです。特に冒頭の波止場のシーンでは紅一点で(主にクリスによる)羨望のまなざしの中で洗練された女ギャングとして登場するジャスティとそれに面白くない感情を抱くヴァーノンの対立が際立ちます。ジャスティンは首にスカーフを巻きジャケットにジーンズにブーツという地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル (シーズン1-3) ソフトシェルDVD BOX 全巻セット(もちろん70年代)のファラ・フォーセットのように決めているのですが、そんな彼女にヴァーノン曰く「相変わらず綺麗だね・・・でも太った?」って挨拶する。その台詞にB・ラーソンのアップが被ると二重三重にも悪意が倍増するよう。彼女決して太ってるわけじゃないし、首も細く長いのだからスカーフでそれを覆っちゃうと「損する」タイプなんですね、ファラ・フォーセットと違って。南アフリカ出身のヴァーノンはとびきりの人種・男女差別主義者で、ことあるごとに他人を威圧する。黒人のマーティンとの間もどこかよそよそしくて互いに信用していない感じ。ジャスティンの裏切りや動悸というのは今の時代の観客にははっきり解るというか、人知れず今の自分のポジションに対してムカついているというのが伝わってきます。暗闇の銃撃戦の間、大騒ぎしている男達のなかで一人無言のまま、目指す獲物っていうかお宝に突進していく彼女。他の男どもはジャスティンが殆ど返事を返さないのに不安になってきて「何処にいるの~答えてよ~君っていつもは優しいじゃんかぁ」みたいな事を言って騒ぎ出すのですが、ソレを聞いたジャスティンがああ!ホントうざい、限界だわ!って芝居をするのに、個人的にもすんごい共感しました。騙されちゃったね、でもいいんだ僕はそれでも君のことがすきだから・・・で終始通すクリスもスゴイ内気で、有る有る、有るよねぇそういうのって、思ったよ(笑)。