2022年に劇場で観た映画 1

 

年明けから波乱に満ちた映画鑑賞の日々とサンダーバード劇場版

年始にレトロお洒落&ギーク(日本で云うところのマニアックなオタク趣味)な映画で和もうという目論見で観に出かけたのですが、新宿のピカデリーに行ったら何処のスクリーンで上映しているのかがあんまりよく解らず、最上階でやっと見つかり席に着こうとしたら自分の席に先客の男性が座っていて驚きました。サラリーマン風の男性は隣のスクリーンで興行していた松本潤クンの「99.9%」が真剣に観たかったみたいで、座席間違えた事に真っ青になって飛び出して行きました。2022年の東京都心の映画館興行では不可思議な事が多くて年末にも小説 すずめの戸締まり (角川文庫)の映画は日比谷や銀座の映画館でロードショーしていなかったり池袋でも3スクリーンもやっていたのに分かりずらくて観客には大変だったのでは。「サンダーバード」、映画内容は楽しかったのですが(TV放送時の1960年代当時の使われなかったエピソードを映画版にしたはずなのに)同時期に勃発したウクライナ内戦の舞台がそのまんまサンダーバードに登場していたので振り返ると些か気まずいものがあります。手に汗握るドキュメンタリーの「レスキュー奇蹟を起こした者たち」(ディズニー+で今配信中)やら年末から話題だったハウス・オブ・グッチ [Blu-ray]は見応え充分でした・・・それにしてもフィクションノンフィクションを問わず情報の読解力を問われる事が増えてなかなか大変だなと思います。その点ではドキュメンタリーの国境の夜想曲(字幕版)とほぼ実話を元にした映画も変わらない。「ハウスオブグッチ」なんかは映画のラストで、あの当時のゴシップは総て茶番だぜそんなにGUCCIが中東の金持ちになんかに乗っ取られるわけないってバラすんですがぁ・・・多分多くの観客は気がついていないってばっ。

 

↑の映画も情報の読解力こそが映画に感動できるかできないかのポイントになります。その点ミュージカルという形式は歌やダンスで主人公以下各登場人物の感情の琴線に触れるので何となく伝わる観客が多いでしょう、それでも内面的でアメリカの若者の力強さと根気強さが解る映画。息子と一緒に観に行きました。

 

それから「マトリックス」シリーズのあのネオとトリニティもっ!!・・・何故彼らが「すれ違いする運命の恋人達」になっちゃったのかは謎、といおうか驚愕でしたがっ。根気強い人々にとっては赤い糸で結ばれた相手は空から振ってくるんだよ!ジブリでもハリウッドでもひょっとしら現実でもって気になったよ映画終わったら。ブレット・トレイン ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]の登場人物もブラッド・ピッドを始めみんなタフだし性格みんなしつこいしね、さすが。

 

根気強い女性達の映画ももちろんありましたが、主に2022年はヨーロッパの映画で観る事がありました。日本だとアニメの竜とそばかすの姫に登場する四国の女性達が地に足がついていた描写が魅力的だったのでファンタジーの要素が浮かずに親しみ易かったのですが。↓の映画では主演のレスリー・マンヴィルイザベル・ユペールが、

 

↓ではフランスのベテラン女優のナタリー・バイが貫禄と辛抱強さを映画の中で見せてくれます。特に「オートクチュール」の女性監督は物語の演出はキビキビとしていて職人気質の人間の表情をじっくりと描いてくれるのですが、どう考えても監督さんは長年ドラマではなくファッションショーの映像とかイメージフィルムを制作してきたベテランのマダムでは?偶々corona渦だったからファッション業界の為に一般映画を撮っただけという気がしてならず、「どうしよう面白いんだけど後もう1本か2本おんなじようなフランス映画観たいですって云ったらこの女性監督はキレて怒りそう」だと思いながら観ていました。

 

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「ミセス・ハリス、パリへ行く」はエピソードが原作もあってか、総花的ではありますが実際にあった実話のヒロインたち数人がミセス・ハリスのモデルの元にはなっていると思われます。だから映画の最後の次にも主人公ハリスにきっとシンデレラ物語があるという暗示が示されていると直感しました。この映画に限らず21世紀の映画は必然性のある成功譚をきっちり描いていくようになると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドキュメント野郎 8「国境の夜想曲」

 

2022年度公開では私的なベストワン

コロナ渦が極まった2022年は劇場公開映画の環境が非常に劣悪で異常な圧力がかかっていた一年でありました。この映画を鑑賞しようとした日もあまりにもヘンテコな事が劇場でも予告編でも頻発し、却って映画内容の衝撃度が高いんだと改めて認識したくらいです。「芸術的で美しい映像のドキュメンタリー」という感想もありましたが。実際はかなりジャーナリスティックで日本人には思いもつかないような中東の内情が、細かい説明のなく次から次へと提示されます。それらをつい推理したくなりますが、私が思うに中東に生きる男性達の人生はホントに厳しいものがあるわって気がしてなりません。

冒頭の「日本の女性なら激怒しそうな」長閑な新婚夫婦の姿

どこの国なのかは不明ですが、石畳が立派な古都といった町並みに若い夫婦が住んでいて夫が夜の街を太鼓を叩き歌を歌いながら家路をたどるというエピソードから映画は始まります。夫が歌う歌詞には「妻となる女が結婚してくれとウルサイから」などという古風なそしてなおかつきわめてアジア的な箇所がありますが、ソレを唄いながら若くて可愛い新妻が待つ居間へたどり着く夫は心から嬉しそう。でも私を含め日本人の女性からすると「この人達いつまでもこんな認識が当たり前で良いのか大丈夫なのか」って気がしてしょうがないし、実際にもそんな長閑な人生があっという間に壊れてしまうのが現代の中東には至る所に起きるであろう・・・というシーンに変わっていくのでした。

草原の鳥追いの少年と中東のどこかにある精神病院の男達

映画のポスターにもなった少年はだだっ広い荒野の街道に一人立ち尽くし、やってきたジープに乗り込んでいくシーンから登場します。数々のエピソードから少年の身の上や生活がぽつぽつ語られていく。少年の住む場所はおそらく紅海の湾岸エリアで、女性達は港に集まって仕事をし(ただし全員が黒いチャドル姿です)少年の家には母親らしき世話役の女性と少年よりも年下の子供が生活していますが少年や子供達の父親はおろか成人男性の姿が一切登場しません。二回目に少年がジープに乗せられたどり着くのがホントにアラビア半島に実在するのかと思うような緑の大草原で、猟師の男性が打ち落とした鳥を走って取ってくるのが少年の仕事、に驚きです。それにしても古風に見え、あまりにも物寂しくみえる美しいシーンに裏に「少年に日常生活で対峙する成年の男性がこの猟師の男だけだったら」という事実があったらちょっと心が辛くなってしまいますね、なんか不穏で心配。

大草原の鳥追い少年のエピソードと交差するように続くのは精神病院に入院している三人の老境にさしかかっている男達。精神科医は彼らに自作のシナリオに基づいた演劇を練習するように指導します、そしておっかなびっくりそうに台本を読み込み芝居にうちこもうとする男達。病院はオアシスにある豪華な邸宅風のロビーなども存在し三人組の他には患者も存在しなさそう、彼らは一見して手厚い治療を受けていそうなのですが、病室にあるテレビで流される「イラクとクェートの戦争映像」には三人とも皆落ち着かず常にパニックを起こしている。日本人の我々には全くさっぱり理解できないのですが三人の男達の身の上がもし「クェートで捕虜になったイラクフセイン政権の軍幹部とか政権幹部」だったらひょっとするとこんな感じなのかもしれません。今更湾岸戦争についての戦後処理をやりたくて旧フセイン政権を担った人間に興味を持つのも、クェートの人々しかいないだろうし。それにしても彼らに姿が哀れなのは過去に怯えるとか罪の意識にさいなまれるというのはなく、男性としてのアイデンティティを何処に求めたら良いのかが解らない流民としてなのです。

クルドの娘たちとシリアの老婆に甘える娘

男達とは対象的にひたすらにキビキビと、そして抜け目ない姿で登場するのは中東の若い女性たちです。クルドの女性部隊は皆で受けた訓練の内容をひたすらに反芻し軍務の準備にはげみ「私たちは出来る」とそれぞれに自らを鼓舞していきます。そして皆若くわりと小柄な乙女達といった風情。それでも夜間に作戦を実行していく彼女たちはホントにプロフェッショナルな兵士。映画は彼女らが特に何かをする事を映し出すわけではありませんが、若い女性たちはこうして屈託なく、より自分が自由にそして自分らしく在るための環境へ適応していくのだなあ・・・自分が生まれ育った土地への思いにもケリを付けていくのかしらんと感嘆してしまいました。そんなクルドの女性部隊に感心しているとシーンはいきなりぶった切られて、内戦でがれきの町並みのなかにひっそりと生活している老婆の元に若い娘の電話が掛かってきます。娘は一方的に話しまくり金銭の無心をするのですが映画では彼女のくどくどとした言い分が荒れきったシリアの惨状の光景と被さって描かれるので、ウンザリした気持ちになり、その娘の電話を携帯で機器ながら哀しそうな表情で切る老婆の姿にホント可哀想、て思いました。文明が発達したおかげで無事を祈っている大事な人の消息がかなり残酷に解ってしまう時代に私たちは生きているのだという気がします。

アイデンティティが瓦解していくのになすすべが無い

他にもイラク少数民族のヤジティの子供達が保護されて精神的外傷を治療していくプログラムの様子などが登場します。衝撃的だったのは子供達が自分達の住む村が襲撃された時の事を絵にしていくのですが、当然のごとく残虐であると同時に襲ってきたISの部隊の連中は仲間割れが酷くて、部隊内のリンチの様子を村人に見せつけて脅す様子でした。子供達(男の子だけ)は皆「女の人を酷い目に遭わせてつり下げる、引きずり回す」と云い絵に描いて泣き出すのです。しかし同じような絵を描いても女の字達はそのようなヒステリックな反応も、悲惨な目にあう女性の姿も絵に描いている様子がないのです。ISの部隊がどのような方法でヤジティの人々を攻撃したのかが解りませんが。か弱い者=女という図式に則って、例えば人形を女性に見立てて残酷な姿で脅しつけたとすると、小さな男の子達は怯え女の子達は次第に白けて冷静になっていくのやもしれません。クルドの女性部隊の冷静さがどうやって自然と成し遂げられたのかという理由にもなると思いました。文明の発達は国境を越えてソレ以前から地域内で形成されていた文化的なアイデンティティを徐々に瓦解していく様を映画全体を通して見せつけられるようでした。

最後にこの映画を映画館で観た日の事ですが、上映前にコーヒーを買って席に着き座席がかなり空いていたので私も含めて館内で数人がマスクを取って予告篇を観ていたのですが、館内が妙に明るくなたかと思うと館内の職員が一人一人に「マスクをしてください」と注意にやってきました。東京の映画館では2022年の年明けから「予告篇が開始又は終了するまで飲食は禁止」だのの注意が始まり、マスクを外してほっとしたい映画鑑賞客を罰したい人々が映画館に注文するようになったみたいです。私の近所の郊外シネコンでは家族連れの反応がコワくて出来なかったらしく、わりあいマスク外しても鑑賞が可能でしたが都心部は年間を通し、そして現在でも映画鑑賞にマスク着用の細かい規制があります。「国境の夜想曲」ではそれだけでは終わらず映画開始直前に「映画上映中の飲食は禁止」というあり得ない表示が劇場で流され、一瞬頭に来て映画観ずに館内を飛び出し返金してもらおうかしらと思ったくらいです。おそらく私と同様に考えて怒って映画を観ずに帰った人やそれを狙ってワザと流したんだと思います。IS活動家はIT技術もあるし国際的に繋がって映画を観たい普通の人々に嫌がらせしようとするの可能だろうな、て気が強くしました。

 

トンデモ悪女10伝説「ナイアガラ」のマリリン・モンロー

 

マリリン・モンローのブレイク作にして禍々しいまでに1950年代ハリウッドにおけるサスペンス映画の大傑作

そういうことなんだっ!!だからマリリン・モンローの「一見して男狂いの頭の悪い女みたいなんだけど何故だかみんな彼女を許す」というイメージはこの映画で確立したんだぜ。それにこの映画はマリリンだけじゃなくて、主要な演技陣がみなさん優秀でみなさん何かがヘン。先ず滝の前で独りぶつぶつ独り言をつぶやくオープニングから登場するルーミス(ジョセフ・コットン)の姿は今の日本人の映画マニアからみるとなんだか日活ロマンポルノの出だしみたい、て思うかも知れません。ルーミス夫妻(妻ローズはマリリン・モンロー)に対峙する新婚夫婦にしてヒロインのポリー(ジーン・ピータース)と夫レイ・カトラー(ケイシー・アダムス)はやたらとハキハキしてて、結婚後のびのびになっていた新婚旅行にはりきっている。映画開始後10分も経たずにルーミス夫妻は夫婦生活が昼夜共に破綻、片方のカトラー夫妻は既に新婚生活をスタートさせていて、妻は「アタシに魅力が無いみたい」とはっきり云うくらいですから、初夜のカップルではないよっ、という事実を強調しているのに気がつきます。そう、解る人はそこにこそ注目して映画最後までご覧になると良いかと思います。

 

ローズは13歳の頃からちょっと他人とは違っていた女の子

最早映画内容とは関係なく名シーンとして抜き出されているのが、湖畔のダンスパーティーの賑やかさに惹かれるようにローズがローズピンクのドレスを着て登場するシーンですね。ポリーは夫のレイに「君もああいうドレスにしてみたら」と云われて「ああいう格好するには13歳から準備していないと無理なのよ」と答えるのも印象的。ローズはダンスの曲に持参したお気に入りの「KISS」のレコードを渡して掛けてもらうのですが曲に怒り狂ったルーミスにレコードをへし折られてしまいます。この間のローズの表情のちょっとした変化がポイントで、ローズは何か意図があって巧みに芝居しているとしか思えない。でも何故彼女はブレない態度でルーミスを騙し続けられるのか、それも片方で若い男の愛人と逢瀬をしながら、ですよ。ルーミスはカトラー夫妻に自分のプロフィールをしゃべりまくるので却って「なんか悪いことしてきた男だからあんな暗いんじゃないの」な印象が観る方にもだんだん伝わってくる・・・エピソードの展開が何だか不穏だけど無理を感じないので「ナイアガラ」は実話を元にした映画で、当時の警察がハリウッドに映画製作依頼して出来上がったのは間違いないでしょう。そしてマリリン・モンローは10代の頃から教育映画に出演したり陸軍出身のマルクス兄弟の映画オーディションに受かったりしていた、そして孤児だった女の子。まさに「ナイアガラ」のローズの役にぴったり。ローズはおそらく20そこそこで自分の彼氏とタッグを組みルーミスを追って内偵していたFBI捜査官です。2年間も凶悪犯と結婚しても平気なのは、ルーミスみたいな反省のない凶悪犯は性的不能なのでセックスはどうせ出来ないからなんでぇす。なので、ルーミスにシャワーを浴びたあとに躰をバスタオルで余裕しゃくしゃくで拭かせたりする。そしてさらに凄いのは憂鬱そうなルーミスが突如ハイになり「何が欲しい?なんでも買ってやる」とふざけて(裸でベットに横たわる)でローズにせまり、それに対してひたすら「キャハハどうしたのぉ」と笑ってるだけの彼女、天井からのロングショットで控えめに撮られてるのですが、これだけ複雑で変態すれすれのシーンは滅多に観られません。ヒッチコック映画でもない。マリリン・モンローがいくらブロンドでもヒッチコックの映画に出演しなかったのは当然ですね。「ナイアガラ」以上のサスペンス映画のヒロインを提供するなんてヒッチコックでも至難の業。

あまりにも高いハイヒール(9センチはありそう)で歩くのは控えめにねっ

とは言えローズは映画のクライマックス前に映画からは姿を消してしまうのですが・・正直彼女は結局死んでしまったのかどうかも怪しいんで、よくよく観てね。ローズは恋人が死んでしまったのにショックを受けて気絶して寝ていましたが、ルーミスが挑発的に鳴らす鐘の音(KISSのメロディー)に怯えてナイアガラのキャンプ場から逃げだそうとします。彼女は自分が病院先から脱走したせいで警指命指命手配してしまい、客船にもタクシーにも乗れない羽目になるのですが、タクシードライバーに「カナダからUSA側に通行する列車の駅までどれぐらいの距離?」とマジで質問したりする、高いハイヒールの靴履いて「歩くわ」って云うんですよね。相当に無茶です、途中でルーミスに見つかって却って良かったじゃんて気がしてきたくらい。マリリン・モンローといえば謎の孤独死の最後も有名ですが、最近私自身が突然死する若い女の人をよく日常生活でみかけるので、日頃の健康状態に注意しないと女の人が一人の時危ないよ、マリリン・モンローみたいになるかもよって思うようになりました。それにしてもピンヒールは無茶して履かないでて思います。私は20代の頃、銀座で当時有名だったエッセイストでベストセラー作家のミス・ミナコ・サイトウ女史がボディコンシャスなピンクのスーツにピンヒールで歩いているのをみかけ後日「真冬の札幌の雪道でもピンヒールを履いて街を歩き廻った」という彼女のエッセイを読み驚いた事があるのですが、「ナイアガラ」でマリリン・モンローがやってみせたルーミスとのおっかけっこもはソレを超える驚異の身体能力の披露だったりするのですよ。そういえばミナコ・サイトウ女史も30代後半で早世しましたなあって「ナイアガラ」を鑑賞して思い出しました。皆さん華麗なハイヒールも良いですが、是非自動車移動を中心にして綺麗にはきこなしていただきたいっ。

ヤサグレ女列伝 13 「竜とそばかすの姫」の内藤鈴(中村佳穂)

2021年度の日本映画興行収入でもトップ取ったよ。

しかしそれにしても、公開中の2021年度には何となく観に行くのを忘れてしまい、やっとこさ先日、早稲田松竹でやっているのを見つけて観ることができました。併映のアニメが「アイの歌声を聴かせて」でそっちの映画の人気も高く劇場では「サイダーのように言葉が沸き上がる」と共に紹介が充実していて、「竜とそばかすの姫」の方が少しだけ。鑑賞終了後に何故だかパンフレットが欲しくなり購入を希望すると、かなり年配の女性の係さんが「パンフレット袋に入れますか?無料です」と幾度となく案内され立派なポリ袋に入れて貰いました・・・不思議な体験でした。そして私と同年齢の細田守監督のアニメ映画鑑賞初体験映画でした。米国のアニー賞受賞の「未来のミライ」さえ未だ全部鑑賞していません。(予告編が劇場で流れていた時期興味を持ったのですが日本のアニメファンの評価、特にストーリー展開の甘さを指摘する意見が多かったのが主な理由です。)細田守作品の評価では常に言われるストーリー展開の詰めの甘さっていう定評ですが今回の映画では映画全体の構成力や設定説明の大胆な省略細田さんの映画作家としての美点であり才能であると強く感じました。でないとカルト人気映画「サマーウォーズ」みたいなの誕生するわけがないわな。

 

仮想空間とプレーヤー自身の心の問題

ヒロインの内藤鈴(中村佳穂)が友人のヒロちゃん(幾田りら)に誘われるままに飛び込んだ仮想空間Uは世界で50億人が集い、皆それぞれAsというアバターを持つのですがUではプレーヤー自身の生体反応を登録するシステムというとんでもないもので、フェイスブックメタバースって本気でコレをやる気なのかいっ?て感じのものです。プレーヤー自身隠している或いは気がつかない個性や能力をひたすらに可視化するいう匿名は一切不可な世界。文章で書くと簡単ですがコレを映像としてはっきり魅せる、先ず鈴=BELLの歌声で圧倒するのは良いとしてもその先はなかなか続かない。なのでUの世界で暴れ回る謎のAsである竜(佐藤健)の登場と二人の対話のドラマが話の中心になり、鈴の成長が描かれるのです。ものすごく退屈な話のようで全く退屈でないのは、四国高知の四万十川の近くで生活する鈴の方は母親の死の悲しみと恐怖のあまりに記憶に重大な錯誤を抱えており、一方東京の高級住宅地に住む(品川あたりと推測)竜の方はというと最後まで彼の正体が明かされないのですが、おそらくは仮想空間Uの開発に加わっており配偶者もしくは恋人と別れたばかりの(私は死別ではないと推測)子供は未だ居ない成人男性という設定で、鈴と竜の二人の邂逅によりそれぞれの精神的外傷を癒やし回復していく過程をダイナミックに描いているからだと思われます。鈴より竜の抱える問題がヤバいのは竜はパートナーとの別れによって父親になり自分の親族の死に向き合った傷を癒やす手段が失われた衝撃に耐えられずに多重人格者と化してしまったという点にあります。彼はかつての子供時代と10代の自分、そして彼自身が許せない未熟な成人男性としての自分、というかなりややこしく自我を分けてしかも己の生体反応を総てUの仮想空間に注ぎ込むという無茶苦茶な事をやっているからです。死ぬんじゃないか竜いくら何でも・・・て気がしてきましたが、竜の躰にある異様なシミはニンゲンとしての竜がガンに罹っているというメタファーなのかもしれません。竜は実生活でもかなり敵が多そう。

 

 

一見、仮想空間に追いやられてしまってみえる内藤鈴の学園生活と日常だけどもっ

内藤鈴は冒頭から鬱屈した学園生活を送っているシーンが展開されますが、通常鬱屈した10代の少女というものは本人だけが自意識過剰で周囲の親や友達からは「普通の女の子」として軽く扱われている・・・という対比のシーンが描かれていないと普通に幸せな少女の青春映画としてはおかしいモノになりがちです。「竜・・・」では鈴の母親が死去しており、母親の死が彼女の行動に影響を与えているという設定がありその事情を親友のヒロちゃんや幼なじみのしのぶ君(成田凌)がキッチリと抑えていて鈴を見守っているので平穏な高校生の日常でもどこか緊張感があります。しのぶの鈴に対するフォローに執念を燃やす態度には、鈴の幼少期の恐ろしい記憶と関係がありおそらくしのぶ自身の幼少期のトラウマを克服するという目的意識があるせいで、彼は単純な王子様として存在しているワケではありません。高校のマドンナのルカちゃん(玉城ティナ)とカミシン(染谷将太)のカップル話も並行して描かれますが、彼らの方が徹底的に幸せで健康的だという点で鈴やしのぶとは対象的な存在なのです。そして中盤以降から鈴に世話を焼く合唱団の5人のマダム達(声優陣が森山良子、清水ミチコ坂本冬美岩崎良美、中尾幸世)の存在は鈴の母親(島本須美)が生前どんな活躍をしていたか、娘の鈴が想像する以上の大きな功績を挙げたようだという暗示になっています。そうなのです、鈴という主人公の潜在的なパワーの源の証明でもある。「竜とそばかすの姫」はアナと雪の女王 (吹替版)と同様にもし主人公が男女がスイッチしても過不足無い物語設定で製作されたアニメなのです。最近のファミリー向けアニメ映画のトレンド抑えているといって良いでしょう。

最後に鈴のお父さんについて

鈴の父親(役所広司)との会話のやりとりは終始「夕飯の支度は父娘のどちらがやるのか」に絞られており、鈴の態度が頑なまでに父親の作る鰹のたたきを拒否する態度のおかげで、鈴の内面の不穏さと複雑さを表現しているのかと映画冒頭から気になっていたのですが・・・よく考えてみたら映画の季節の設定が真夏であり、いくら高知でも冷凍鰹のたたきを夕飯のおかずに食べるのは嫌だ、鰹の旬を知っている若い娘だからオヤジに付き合って鰹のたたきのお相伴に預かるのは勘弁して欲しいっ、という鈴の意思表示であると映画終了後に気がつきました。なので娘を持つ既婚男性はあまり深く悩まないで下さい、気にしないでっ。ただし日本全国の魚の産地に住むお父さん方には参考になるかも。

 

 

2021年に劇場で観た映画 4

 

ワンダーウーマンから土竜までシリーズ物鑑賞にも困難の日々

そうなのです、人気の映画シリーズでも一般観客向けの試写会の反応があんまり良くなければスクリーン数が減らされるかもしれない、それが日本の映画産業におけるcorona渦の衝撃でした。何せ緊急事態宣言が起きれば都内でも劇場公開日がなくなり公開作品の日数が減りますし、後がつかえる。劇場公開が一年以上遅れたワンダーウーマンの続編ですが冒頭のダイアナの少女時代のエピソードだけでもご家族揃って楽しめる娯楽映画だと思います。ウチの息子と一緒に観ました。それに比べたらクーリエ:最高機密の運び屋(字幕版)は大人向けの、特に大人の男性向けの映画。モンタナの目撃者 ブルーレイ&DVDセット(2枚組) [Blu-ray]のアンジョリーナ・ジョリーをはじめとする強い女たちや子役にやっつけられるプロっぽいんだけどやることなすこと詰めが甘い男たちを鑑賞して心が砕けたアクション映画ファンは是非「クーリエ」も観てね。プリズナーズ・オブ・ゴーストランド[Blu-ray]は観られる機会が無さそう・・・と半ば諦めていた所、日比谷のシネコンでやってると判って観に行きました。劇場で出演していた栗原類さんが来ているのが解ったのですが、彼が来る以前から大御所の役者さんが既に席に着いていたり、映画のアクション指導しているっぽいヒト、広告代理店勤務の重役さんなのかなあ?みたいな方々がいらっしゃったんで、却って緊張感がほぐれて良かった栗原さん有り難うという気分になりました。だって園子温監督のハリウッド進出映画だったんだから、そりゃ皆注目するでしょ。

↓の映画だってただの伝記映画ではありません、観ると混乱するし、コワい所も。

アネサ・フランクリンの生涯は映画でもキチンと100%正確に描かれないほど、煩雑で説明困難な状況が黒人社会やUS及び世界の音楽業界にあるだという事が映画を観ると伝わってきます。なので伝わらない観客には辛くて訳わかんないお話かも。それなのに女性が主人公なら未だ無視していられる日本の男性観客は多いのでしょうか。

youtu.be

↑の映画は2021年夏頃から都内でもかなり長期公開されたヒット映画で、シニア男性や若い男性客が平日でも熱心に観に来ていました。キライな男性の観客も多そうですが(DVDもアマゾン配信も日本は未だない)アクション映画としても一級。ただ私はこの映画実話ベースなので、主人公の若者グループが全員少年でないと設定的におかしいとは感じますが。日本の女性たちがこの映画観ると「日本国内山中なら女子だけで暮らせる」って勘違いしそうで少し心配・・・所変われば鑑賞の反応も違う事があるものなのですよ「MOMOS」と同じ劇場で公開されてたドキュメンタリー映画「主婦の学校」も好評でこっちはご婦人方が沢山来ていました。既に配信サービスで鑑賞できますのでwww.youtube.comで気になった方は是非ご覧になってください。

 

そして11月には日本のアラン・スミシーこと藤井道人監督の異色のヤクザ映画ヤクザと家族 The Familyを観たあたりでも充分疲れちゃってもう年内は観なくとも良いかなとちょっと感じていましたが師走に入り興味があったので観に行ったのは、地方自治体の職員への割引制度があって地方からのお客さんで賑わってた↓のドキュメンタリー映画。前職のボストン市長は代々市長の家系で米国内を自治体の長として渡り歩いたという人物を職員の皆さんはどう感想を持ったのか聞きたくなりました。

そして、娘さんのいるお母様には特に観てほしいと思ったホラーサスぺンス映画だったのが↓の映画。よく観ていくと昨今の高齢出産でお子さんを産み育てる子育てについての不安と利点も同時にある事が解ると思います。

 

んで、ドライブ・マイ・カー インターナショナル版と↓の映画では鑑賞する際に妨害を受けた気分に陥り年末の都内で独り、怒り狂いながら観ていました。

 

 

 

 

 

 

2021年に劇場で観た映画 3

 

あまりにも「お説教」が痛い映画

映画製作の前年からネットで火が付き、アニメ映画となったワケですが、原作の漫画のファンにとっては一番観たくなかった形の映画かも。しかしながらこの映画化作品にこそ感動、若い人に見せたいと望む教育関係者や産業界の重鎮、キャリアカウンセラーやら地方自治体の役所などの強烈な動機が理解できる年齢の私(脚本と監督はカメラを止めるな!上田慎一郎でアニメーション監修に湖川友謙さんてもうあり得ない豪華なスタッフなのよっ)にとっては、「100日後に死ぬワニ」とはタイトルも違う話、漫画のワ二とは違う若者の物語とは別だと思って下さいね。漫画のワ二はミカン農家の跡取りじゃなかったでしょ?とだけ言いたいです。

 

夏休みに入り息子がどうしても観たかったのに果たせず、私一人で観に行ったのが残念だったのが「イン・ザ・ハイツ」何せ平日の公開時間の一時間近く前に当日チケットを買いに行ったら既に完売だったのにも関わらずどんどん公開スクリーンが減らされていったのです。私はこの手の劇場通いの戦いを2021年の秋冬から続けていますっ💢。<レンタル>ゴジラvsコング(吹替版)での小栗旬出演や大魔神実は面長のお子さんだったのに気がつき驚いた妖怪大戦争 ガーディアンズ Blu-ray 豪華版を観ても一向に穏やかな日常の気分に戻れない一年でした。

日本のコアな映画ファンには「DUNE」人気が凄くてそれが2021年の一番の驚きでした。私自身も久々に物語で魅せていく映画だったなあという感想を持ちましたが、こういう青年の成長譚を面白がる、それでいてオタクというより広範囲なサブカル好き、ビジネスや教養好きな人々がこの映画について好意的な発言していく時代になったんだと感慨深いです。世代が変わったからとはいえ、それだけでない日本人(特に男性)の意識の変化を感じます。日本人の男性がよりグローバル感覚になった証拠かもしれません。007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(字幕版)は先ず冒頭20分ぐらいのカーアクションに圧倒。新車購入を考えている人に是非観て欲しいです。【Amazon.co.jp限定】ディナー・イン・アメリカ(L判ビジュアルシート付) [DVD]は是非往年の日本のTVドラマ想い出づくり DVD-BOX 全14話収録を観た事あるヒトにお奨め。「ディナー・・」の主人公であるサイモン(カイル・ガイヤー)の実家設定が「想い出・・・」に登場する柴田恭兵演ずる若いヤツと同一だったりしたら、おそらく1980年代当時でも視聴者老若男女から総スカンだったと思います・・・要するに最後の決闘裁判 4K UHD [Blu-ray]と同様にシニア層の映画ファンには「DUNE」よりは身近で理解しやすい映画だって事です。劇場版 ルパンの娘はロケ先のドイツの古城を魅力的に撮影するのには日本の撮影スタッフの力が必要だったんだ!・・・という事実に衝撃を受けました。まさかっ、そんなトコが海外ではクールジャパンとして認知されてきたんでしょうかっ。ドキュメンタリーのコレクティブ 国家の嘘(字幕版)では東ヨーロッパの中でもルーマニアの産業レバル、人材レベルがハイスペックで皆さん仕事熱心で誇り高い・・・という要素も悲劇の要因のひとつかもしれないと思うと胸が痛いし、とても恐ろしいです。

2021年に劇場で観た映画 2

 

そして2021年の正月映画を6月に観に行きました。

えんとつ町のプペル」は年末から劇場予告編やTVスポットで流れる度に、画はチャンとしてるからひょっとして・・・という思いが抜けず渋谷の映画館で未だロードーショーやってるじゃんと探してでかけました。劇場ではどうみてもリピーターとしか思えない親子連れや3,40代の一人で来ているサラリーマンなど個性的なバラバラの観客だけども思いっきり感動して泣きたい人々のようで早稲田松竹チェブラーシカとはまた違う趣の衝撃を受けました。そして私が観た翌日は同劇場でキングコングの劇場挨拶アリの特別上映会・・・一体どんな人々が集まったのでしょう。私は西野さん主催のサロンのユーザーが引いてしまう程のマニアックなファンタジー映画ファンが押し寄せてくる想像をツイしてしまいました。つまりは近年の日本のファンタジー映画のジャンルを代表する一本にはなるくらいの映画だったて事なのね。そして総てのガンダムファンが出来れば憤怒して金返せと一揆して欲しいぐらいなのが閃光のハサウェイ。久しぶりにミラマックスのロゴをみたジェントルメン(字幕版)マシュー・マコノヒーはさすがに大人で、最新のギャング事情をリアルに表現してくれるので「閃光・・」に登場する主人公ハサウェイのグループがいかに馬鹿揃いで危険なおもちゃ(モビルスーツ)を乗りこなすのも下手くそなのかがよく理解出来ますわっ💢。

そこ行くと↓の3本の素晴らしさといったら・・・(哀)。残念ながら「プペル」の良さがよく判らない日本の映画ファンには3本の映画で満足しちゃって日本映画まで観たいとは思わないかも。そういう現実だってあります。

前作のクワイエット・プレイス (字幕版)は小中高校生までの男子諸君にはあまりにコワさに字幕版をお奨めしたいくらいの受難に遭ったアボット家の長男チャールズ君(ノア・ジュープ)でしたが、今作でも我慢して我慢してやっとこさ弟を守り切る執念に感動しましょう。そして長女のリーガン(ミリセント・シモンズ)が家族を思うあまりに社会との関わりに目覚め。気がついたら自分の聴覚障害を忘れてしまう程の活躍をすることに驚きましょう。でも映画終わった直後にはコワすぎて気がつかないけど。そして多分アボット家の長男の役名はチャールズだったと思う少なくもマルクスでは無い筈。

今回のキム・ミ二さんは女探偵ですね。洒落ているんだけど日本人の私には韓国の結婚夫婦事情が近い事も多いので素直にお洒落なドラマを楽しめないのが若干辛いです。

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ちょうど劇場公開されたこの頃の劇場の雰囲気は辛いコロナの日々の憂さを映画観て吹き飛ばしたい観客が何人かいて映画だけでなくそこでも元気をもらいました。