日本の四季を映す「緑」の映画
もちろんここ数年の日本において青春映画の代表作であることは間違いないだろうし、ドラマチックな展開が魅力なのは当然なんですが、私的にはこの映画の色彩感覚のオリジナリティが傑出しているのに終始驚き感嘆した映画シリーズなんで、そこんとこを推したいのっ。日本映画ではcorona渦が起きた2020年までは高校生を主人公にした映画が数々のヒットを飛ばし、潜在的な映画の観客動員数を上げたり、主役級の役者や映画監督らの世代交代を後押ししてきた側面があります。その中でも「ちはやふる」シリーズは主役の広瀬すずや野村修平、松岡美優だけでなくTV、映画でも現在活躍中の若者たち(新田真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希、清原果耶ら)が本格的に顔見せになった作品と云って良いのではないでしょうか。で、「ちはやふる」にはそんな若者たちのキャラクターを表す為に何故だかイメージカラーのようなものが存在し、ロケ地撮影の風景と共に演出のポイントになっていました。私自身、映画鑑賞の記憶を振り返るとまるで呉服屋の娘である大江湊(上白石萌音)ちゃんの執念が全開したような錯覚を覚えるほどです。
綾瀬千早のイメージカラーは何と言っても「赤」
熱血かるた少女であるヒロイン千早(広瀬すず)のイメージカラーは赤、それも朱赤です。といってもちはやふる 上の句 [DVD]でも高校競技かるた全国大会の際に湊さんから「かるた大会でかるた部チームのユニフォームを着物と袴にして欲しい」というリクエストを聞き入れて彼女にかるた部全員がコーディネートされてしまったからではありますが。湊ちゃんのイメージカラーは卵の黄身みたいな黄色とえんじ色かな?彼女たちは二人とも実に日本の女学生って感じがします、着物の袴の色がえんじとかえび茶が多かったせいか、洋服が当たり前になった21世紀の女子高校生のジャージの色もえんじとかえび茶を踏襲したものが学校が多くなりがちです・・・なんで極めてリアルな表現なんですが、それを日本の色彩文化の豊かさとして提示しているのが新鮮に映りました。男子だと綿谷新(新田真剣佑)が白、西田優征(矢本悠馬)がまっ黄色、駒野勉(森永悠希)が青、そして千早のカルタの最大ライバル若宮詩織(松岡美優)は紫という具合です。んで、真島太一のイメージカラーは映画ではなんだか少しややこしい感じで演出されております。そしてついでに言うと漫画原作と違って真島太一こそ主人公として映画三部作はクローズアップされております。私は映画の上の句を観た段階で、映像はともかくお話の構成は1980年代のハリウッドの青春学園映画みたいだと思いました。
真島太一のイメージカラーは?
真島太一のイメージカラーも映画ポスターなどで見た限りでは「青」でよいだろうとは思われるのですが、何故だか太一に和服のイメージがあまりにも無い故に今イチ決まっていない気がします。敢えて言えば競技カルタ部のTシャツの浅黄色とかちはやふる ―結び― 通常版 Blu-ray&DVDセットで予備校講師でカルタ王の周防久志(賀来賢人)に太一がまとわりついていた時に着ていたダンガリーシャツの青のイメージかもしれません。太一の場合はイメージカラーというより「ちはやふる」全体を通して高校入学時に一番の成績だったという彼の矜持を示す為なのか、部活時の際着用しているTシャツのロゴが常に「Harvard」であったり「Hawaii University」だったのが強烈に印象づけられます。振り返ると机クンとあだ名された駒野くんはカルタ部に入部された時もコワくてたまらなかった気持ちは案外と深刻で、太一クンには気を遣っていたのかしらんとか、いろいろ想像してしまいます。太一くんにアドバイスする原田先生(國村隼)もそりゃあ悩むだろうなあ・・・って細かく考え始めるときりが無いです。新くんの悩みと比べるドラマチックで家族間の継承という側面が薄い所為もあるのに、よくここまでドラマ引っ張っていけたなあって思いました。家族間だとか世代間の継承、よりもさらに深く説得力のある青年の悩みを上手く描ける事が今までの日本の映画にはなかったんですが、今後はより観客に求められていくだろうなあ、大変・・・と考えると辛いっ。
映画館で観賞した時の思い出
以前にも書いたんですが、「上の句」を近所のシネコンで鑑賞した時に劇場は春休みの時期でもあり若いヒト達が大勢来ていて、比較的前の席でもチケットを取った時点では私の隣席は一人分しか空いていませんでした。そしたら映画始まる直前近くに一人男子中学生が私のようなオバサンとOLさんの二人連れの間の席に挟まって前めりに映画を見始めた姿に驚いたものです。彼はおそらくは映画を観るのは2回目以降と思われ、ひと目も気にせず映画に熱中していたと思われます。私自身は「上の句」ではストーリー以上にカルタ部が体力作りの為に登山する山の緑や初夏の山頂の霞がかった景色にかなりの感動を覚えまして競技カルタの熱血シーンや湊ちゃんの語る、日本の和歌に託した恋心や感情の起伏、それがパワーを産み出し言霊が可視化される瞬間を映画がかつてなくドラマティックに演出されていったのに感服しました。その時の男子中学生もかなり成長したでしょうから、熱血シーンや学園青春部分だけでなく、新緑に浮かぶ赤い鳥居だとか、福井の夕焼けのシーンだとか、日本の風景までが意図的にドラマティックに登場している(ドラマティックに・・・具体的にいえば風景が季節の移り変わりや土地の違いを明確にし、物語の時間や登場人物の心象風景まで観客に提示するという事です。上の句とちはやふる-下の句-は特にそう、最後の完結編はロケが東京が中心という以前に完全に太一のドラマに昇華している・・・別にそれは不満じゃないけど。)部分も堪能して立派な映画マニアになってくれることを期待しております。