お祓いされる女⑦「寝ても覚めても」の唐田えりか

 

寝ても覚めても

寝ても覚めても

 

 2018年度に男子ウケが最も良かった恋愛映画

 映画製作以前に原作小説に付いていたコピーが「人は顔で恋に落ちるのか?それとも・・」って結構衝撃的な文面だったのを覚えています。映画公開後の現在は「顔が同じだから好きになったのか、好きになったからそっくりに見えるのか」ってのに変更されていますけど(笑)。どう考えてもても大抵の男性観客は怒り出しそうな気がしましたが、フタを開けてみると男性の映画ファンに一層高評価だったでした。でも特徴があってインテリ系の人達ねだいたい。私自身はと言えば原作小説のあらすじ知った段階から「なんだか大昔のキャンディ・キャンディ コミック 全9巻完結セット (キャンディ・キャンディ 講談社コミックスなかよし )を思い出すような」という事ばっかり気にして観に行ったので正直もの凄く驚きました。この映画のヒロイン朝子(唐田えりか)のモデル、私「キャンディ」の主人公キャンディス・ホワイト・アードレーなんじゃないかと思ったくらいです、おまけに彼女をとりまく友達さえ「キャンディ」に出てくる彼女の友達の同世代キャラクター達を彷彿とさせます。映画観た翌日そういう結論に至ったよ。とにかく東出昌大が演る鳥居麦と丸子亮平の二役がまるでクローン人間のようなでありまして、しかもこの東出の芝居を観ながら「キャンディの歴代の彼氏達(アンソニーとティリーとアルバートさん)がまるでキャンディの漫画に登場する順番とは異なって出てくるように思えて仕方ない」という事に衝撃を受けておりました。もはや「キャンディ」の漫画を知らない人間にはさっぱり訳が解らない説明になっています。(笑)が、朝子というヒロインは「顔で恋に落ちる」のではなく「新しい彼氏と幸せになった段階で、直ぐ側に近づいてきている筈の元の彼氏の事は忘れてしまって全く気がつかない」状態に陥ってしまう、そこがキャンディとの一番の共通点であったりするのでした。

朝子にとっての大恋愛(大阪)、亮平にとっての恋愛(東京)

 映画は朝子と麦の衝撃的な出会いから、麦の自由奔放な振る舞いに朝子が振り回され急に麦が朝子を置いて何処かに放浪しに出かけてしまって二人の恋は唐突に終わる、というのが序盤です。それから舞台は東京に移り、関西から東京に赴任してきた丸子亮平(東出昌大)が中心になって進んでいくようになります。んで観客は(朝子の過去を知りながら)亮平が訳ありの朝子に惹かれていく様子に付き合っていく。この映画実質は「男の為の少女漫画チックなメロドラマ」なんですね。亮平の周囲には他にも朝子の東京で出来た友人で亮平を密かに想う鈴木マヤ(山下リオ)亮平の会社の後輩で後にマヤと結婚する串橋(瀬戸康史)が登場します。亮平と朝子が始めて出会った時、朝子は当然のごとく昔の恋人とうり二つの亮平に驚きうろたえてしまい、それが亮平に強い印象を与え、彼女の事が気になっていく。もうこの辺から映画の真の主人公は亮平じゃんかになっていきますが、私にとっちゃこの映画を振り返ると「序盤を過ぎて亮平/キャンディだとアンソニーに相当するキャラクターが中心になっている」みたいに感じてしまってなんだかヘンな気分に陥るのでした。アンソニーってのはキャンディのローティーンの頃の彼氏で、正義感に溢れ周囲の女性達にはモテモテなのに質実堅実な貴公子。でも将来設計としては地主クラスの農家の御曹司で早世してしまってあっさり「キャンディ」の物語からは去ってしまうのですが。亮平の職業は酒造メーカーの営業ですが営業は営業でも酒造りの工程において農家と交渉する仕事の方が元々大好きって設定でそこもアンソニーっぽいです。もしやコレはアンソニーの逆襲なのだろうかっ、と東出昌大観ながらずっと頭の中に渦巻いていました。(笑)

東京の友人、大阪の友達

 んで、朝子の大阪時代、前彼の麦とも共通の知り合いなのが朝子の大学の同級生である島春代(伊藤沙莉)と同じく同級生で麦とも親戚関係にある岡崎(渡辺大知)です。春代と岡崎は映画後半にも登場しますが、彼らの運命の対比があまりにも残酷なので、コレに引っかかりを覚えると観る人が尚更困惑するのと朝子がやらかす後半の変節ぶりへの不信感が一層増すという不気味な効果を与えているのも鑑賞ポイントかもしれません。春代は自分は朝子ほどは可愛くないがその分コミュ力と人を見抜く力にプライドを持って常に堂々としている姿と、対する岡崎の子供っぽいだけではないマザコンぶり(田中美佐子演じる母一人子一人の母子家庭)も大阪部分ではいきいきと描かれているので私自身顛末はかなり寂しい気分になりました。しかしながら一日経ってみると「でもキャンディに登場する男女で一番性格の良い二人(ステアとパティ)は結ばれなかったわぁ、それに岡崎くんはお母さんが一番好きだからアレで良かったのかも・・・と一人で納得してたので、私の中の「寝ても覚めても」=「キャンディ・キャンディ」は止まらないのでありました。

キャンディへの「逆襲」

 原作、脚本、監督自身は「キャンディ」なんて漫画に全く影響受けずに映画製作した可能性が十二分にあるのでw(ただし年齢的に製作サイドはキャンディのアニメ等を子供の頃から知っている層ではあります)、「なかよし」よりは「少女コミック」ぽい少女漫画を連想する観客がいてもよろしいですよ、そりゃあ。ただ余計な事を付け加えると「キャンディ」に代表される70年代少女漫画の中には「女の子が自立しすぎるとオトコ運が悪くなるので適当に切り上げて王子様と結ばれろ」という隠れたメッセージが有りました。だから「なかよし」連載時に読んでいた「キャンディ」の愛読者の大半にとってキャンディって「不良のティリーと分かれた時点で物語は実質終了、後日談で幸せになる」漫画として最後に完結しました。70年代黄金期の少女漫画の中でも「キャンディ」って熱狂的な男性ファンがいる事でも有名なんですが、私顔は同じ系統の美形のまんま熱血優等生からやんちゃな不良青年へ気を移し最終的に年長の金持ちの嫁になろうとしているキャンディに生臭い女の欲望丸出しな姿を見いだしていたので20代に成長した段階ではヒロインとしてのキャンディにちょっと引いておりました。その頃はバブル絶頂期でもありまして、大人になる事と男を選ぶ事ががっちりとリンクする行動になっているのは結構しんどいものだったりしたのです。どんなタイプだろうがどっかで自分自身の「打算」がそこに見え隠れするもので、ソレが頭をよぎって悩み始めると止まらない。だから朝子が麦と再会してああいう行動に出るのは私的にはさほど違和感が無くその後しばらくして岡崎の家に見舞いに行き岡崎の母との会話で勇気を出そうとする朝子の姿にもとりあえずもう大人なんだから自分で落とし前を付けようって感じだったので、まあ良かったかなあと。ティリーと分かれたキャンディが徐々にさばさばしていくのと変わらないようなぁ(笑)。とは言え男性観客からすると麦の再登場してからの展開はブレードランナー 2049 (オリジナルカード付) [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]でのライアン・ゴズリング気分になりそうな程、キツいもんがあっただろうとは思います。麦曰く「お前(亮平)はクローンだから役目終了」てなもんよね。 

キャンディ・キャンディ 全6巻文庫セット

キャンディ・キャンディ 全6巻文庫セット

 

  幼い頃にキャンディが憧れた丘の上の王子様も「だからさあ、彼奴ら(アンソニーとティリー)はクローンでプロトタイプは俺」で再登場に映った読者が特に男子達には多かったのかもしれないわぁ・・・て「寝ても覚めても」観た翌日に思い至りました。彼ら案外ショックを受けていたりして。TVで人気の林先生は「キャンディキャンディ」の漫画がお気に入りなんだそうですが、林先生自身は優等生のアンソニータイプから一発当てたいギャンブラーのティリー、そしてアードレーのオジサンみたいなフツーの金持ちになってバブル時代を駆け抜けたのであって、キャンディ推し以外に男子では推しキャラは存在せず「キャンディが寄ってくるような自分にメタモルフォーゼしていくっ」という戦略に行ったみたいです。でもそんな無茶するキャディファン男子ばかりではないはずなので。「キャンディ」男子読者にとっての推しボーイキャラは一体誰が一位になるのだろうとは気になります・・アンソニーってそんなに重要だったのかと「寝ても覚めても」観て私一人で勝手に唸ったのでした。