ロリータちゃんがいっぱい ② 「SOMEWHERE」のエル・ファ二ング

 

somewhere Blu-ray

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  イマイチ、ピンとこないんだよなあ・・・

この映画観てそんな感想持つヒト(特に男性の映画ファン)には多そうですね。で、そんな意見の方は、おんなじロリータ物ならサマリア [DVD]なんかの方がずっと理解できるし映画としても面白いじゃんとか言いそう。ちなみにあちらは(米国)あちらでああいうアジアの援助交際映画なんてのはホントに大っ嫌いみたいですよ。「サマリア」の方は2004年のベルリン映画祭で銀熊賞を取りましたが、「Somewhere」は2010年のヴェネチア映画祭の金獅子賞を受賞。ヴェネチアの審査員全員一致で決まったという話だそうですが審査員長のタランティーノが強力プッシュしたのは間違いなし。江戸の敵を長崎で討つ・・なんてのがアメリカの諺にあるわきゃないんですが、ロリータ映画にも「政治的に許されるグローバル・スタンダード」を構築すべしという強固な責任意識が米国映画界にあったみたい。ていうのも、今年四月にバードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) [Blu-ray]を観たんですけど、一部の韓国文化に対してというか「サマリア」に対してにどうしてこんなどさくさまぎれにdisったりするんだ? というような台詞がちょこちょこ出てきて呆きれた経験をしたもので。・・・まあ暇な方はとにかく3本とも観てくれれば私の言いかがりも少しはお分かりになるかもね。

 

 どこへ行ったら良いのか分からない

 冒頭、黒いフェラーリが砂漠を猛スピードで横切ったと思ったら、再びやってくる。それがまたどうせぐるぐる砂漠を回って走っているだけなんだろう的なタイミングで主人公ジョー・マルコ(スティーブン・ドーフ)が登場。なにせ監督のソフィア・コッポラは「生え抜きのお嬢」ですもんね、ちょっと気の利いた演出があっても「こけおどし」にしかならないと思いたいもんです。私はこのヒトそれなりに「おっとりとしたユーモア感覚」があるなあとは感じるのですが、公開時の映画評では「何が良いんだかさっぱり分からん・・・特にあのストリッパーの二人組とか全然イカしてない」等の辛口意見が多かったのですよ。けど問題のジョー・マルコがLAの高級ホテルで楽しむ出張ポール・ダンサーのお姐さんたちのシーンはかなり秀逸だといえますよぉ。女性目線で描いた男の生理をそれほど攻撃的でなくやんわり描けるのは結構すごいと思う。それでなくともタランティーノ足フェチですからね。相手が元カノであっても容赦はしないというか、元カノだけに勘所は心得てるというか(笑)。お姐さん方がコスプレをテニスギャル風に変えただけで「うきうきして興奮しちゃう♡」マルコには中年の「老い」つーのを感じるものよ、特に女の眼から見ると。黒いフェラーリ乗り回して女の子たちを遊びがてら追っかけてみたり、身体の手入れ(ムッキムキなの映画の中では殆どフィットネスの場面ないのに)だけは完璧だったりはする「まだまだ中堅のスター」ではあるのだけど、別れた妻(ミシェル・モナハン)との間にはもうティーンの娘クロエ(エル・ファ二ング)がいる。夏休みなんで数日間預からなきゃいけないけど、自分の高級ホテルの部屋では間が持たないので友人のサミー(クリス・ポティアス)のマンションに連れて行くだけで精いっぱい。サミーはクリス以上に未だ子供サマなヤツなんで、彼のウチへ行けばWiiのゲームで遊ぶことができるしね。サミーはいつでも訪問歓迎してくれるんで有難い。・・・とはいえクロエもそろそろお年頃なのでサミーはクロエとゲームしながら楽しくトークはしてるんだけど、クロエをからかっているだけなのかそれとも隙があれば口説きたいのかが微妙。で、クリスはそんなの当然気が付かない。そう十代の女の子にとっての日常から零れ落ちる「ちょっとした危機」ていうもんはそうやってさりげなく上品に描くもんです、ひたすら「御金欲しさにオヤジに身体許す」小娘の話ばかり馬鹿の一つ覚えのように描くアジア系ロリコン映画と一緒にすんなっ! ていうアピールなのでしょう。そしてワタクシ個人的にもこういう洒落た女の子生活描写にだってもうちょっと日本のオジサン達は慣れてほしいもんだと感じます。

 もういつまでも同じ処に留まってはいられない、「子供が育つ」とはそういうこと

 お話としては、いったん父と楽しくも短いバカンスを送ってバイバイしたはずのクロエが、一日二日もたたないうちにトンボ返りやってくるのでマルコは慌てます。妻に連絡するといきなり「ちょっと旅行する、いつ家に戻るのかはまだ分からないけど2週間後にクロエはサマーキャンプに行く予定だから大丈夫。それまで預かって」って予想外に「謎のような」ことを言うばかり。クロエと元妻は当初マルコなんぞよりはるかにまともで堅実な生活をしてそー、という感じで登場しますからさすがに観ているこっちもマルコともに緊張してしまいます。とはいえマルコとしては新作映画のプロモーションの為にイタリアに行かなきゃならないし、てんで娘連れてイタリアへ。で、あわただしくイタリア着いてもヤルことと言えば「いつもの浮かれたプレイボーイライフ」な訳だし、そんな父親の周辺に漂ってるクロエも結構それはそれで楽しいらしいし・・・ま、いいかぁ、と娘とのバカンスをいい加減に、でも快適に過ごしちゃうのさ。(しかしイタリアのシーンはもろLAで撮影されてて「フレンズのイタリア語吹き替え」まで延々と見せたのはバカバカしくて可笑しかった(笑))イタリアからLAに戻って父娘二人でホテルで過ごすのにもようやく慣れたよね・・・という段階になってキャンプの集合期日が迫り、仕事のスケジュールを気にしながらアリゾナまで送り届けてやっと父親の役目が終わったぁ、という瞬間になってクロエは突然に泣き出す「アタシこれからどうなるの?」って。観てる方も「ホントどうするつもりなんだこの娘は」と思うよね。でも私らにはさっぱり見当つかないんだ、どう見てもクロエって娘は「そこそこ幸せな子供時代を送ってきた気立ての良い女の子」でしかないんだから。あんまり会う機会のなかった父親のマルコにだって元妻が今どんな状態で、これから娘にもっと自分のサポートが必要になってくるのかどうかも分からない。それでも娘をちゃんとサマー・キャンプに送り出すしかないし、子供の時期を終えようとしている娘がsomewhere(どこかへ)辿り着くまで、ちゃんと見届けることしか父親にはできないのさ。

 クロエと別れた後、マルコはLAのホテルをチェック・アウトしてフェラーリをブッ飛ばし砂漠へ着くと車を降りてふらふら歩きだす処で映画は終わり。だからって特に仰々しくシリアスに受け取る必要はない、糾弾してるわけでもない。ただいつまでも変わろうとしないままでヒトは済む訳にはいかないってだけだよ。