ロリータちゃんがいっぱい ③ 「タクシー・ドライバー」のジョディ・フォスター

 

タクシードライバー [Blu-ray]
 

  不思議なヒーリング感覚がある映画

 今年の夏はまたいきなり「酷暑日で熱帯夜」状態に突入したもんですから、眠れなくなったらどうしようかと思い、「自立神経が整うCDブック」というのを毎晩聞いてから寝るようにしています。そんな折、寄りによってこの手の映画観ようというのも困ったなあとぼやきながら鑑賞始めたんですが、冒頭の気怠いサックスのメロディーとそれを断ち切るような鈍い「ブョーン」という効果音に何故だか安心して期待できます感があって、主人公の日常生活を描く陰鬱な展開が気にならないのさ。音楽のバーナード・ハーマンはこの作品での独創的なスコアが素晴らしいてんでアカデミー作曲賞を取ったそうですが以前のヒッチコック映画時とは全然違うし、同時期の愛のメモリー デラックス版 [DVD]のテーマソングとも違ってる。ハーマンの音楽に必ずあるカン高い金属音というものが存在しないの。だから映画全体が凄い温いカンジで血みどろシーンの連続を見せられても日本人のアタシらなんかにはあんまり怖くなかったわ。でもまあ米国人にとってもそうだったのかも・・・なにせ主人公のトラヴィスロバート・デ・ニーロ)ときたら独りよがりのイカレたヒロイズム野郎で、そんなバカがなんと一種の自己実現を果たして社会から一目置かれてしまうっつー映画なんだもん。特にラストが(何処をどう評価しても)トラビスが変態でも変人でもシビル・シェパード演じるインテリ才女は彼に振られて正解だよ彼女は気にするな、と私ならアドバイスしたいです、絶対に。だってトラビスは英国映画の早春 デジタル・リマスター版 コレクターズBOX [Blu-ray]に登場する主人公の「少年」により近い存在だしね。(この指摘には文句ないはずっ)

それを当時の人達は「アメリカ映画界でも外国映画(日本映画とかさ)に詳しい知性派のスタッフが創った」作品としてカンヌでパルム・ドールまで取っちゃったんだから、ヒドイ話さ。女性嫌悪と人種や同性愛差別がいっぱいで、いまどきのLGBT系やフェミ系のお若い方が観たら「どうしてこんなのが名作なわけ!!」とキレること間違いなし。そんな貴方はきっと「ヴェトナム帰還兵」だの「アメリカン・ニュー・シネマ」だの言われてもピンとこないかもしれませんんが、同時期の映画で狼たちの午後 [Blu-ray]というこれよりはだいぶ知性ある脚本で描いたやつも合わせて鑑賞してみると良いですよ。

 掃き溜めの街に「一輪のアイリス」

 ジョディ・フォスターの役は13歳の家出少女でNYの街を娼婦として彷徨ってる。そんな時にタクシー・ドライバーのトラヴィス見出されるのね、汚いごみ溜めのような場末の通りに咲く「一輪の花」として。ラヴィスは除隊して虚脱状態にある自分を立て直そうとしてタクシードライバーの仕事にムキになって取り組んでいるけど、内心寂しくてしょうがない。ロマンチックな恋愛に憧れて大統領候補の選挙事務所で働く美女ベッツィー(シビル・シェパード)を口説いたけど見事振られたし。そしてそんな失意のうちにタクシーを走らせている時にトラヴィスの車に乗り込んできたのがジョディ演じる少女娼婦アイリスというわけ。アイリスはいつも突然トラヴィスの視線に割り込むように登場して彼をハッとさせる、まるでかの散り行く花【淀川長治解説映像付き】《IVC BEST SELECTION》 [DVD]に出てくるリリアン・ギッシュかってくらいの勢いで。で、そんな彼女が気になったトラヴィスは彼女のヒモのスポーツ(ハーヴェイ・カイデル)に金払ってまで会いに行くのだ。ここら辺のトラヴィスの行動が結局何に駆られてなのかが邪推すると分からなくなるけどね。でも男だったら「こんな幼いのに地獄に落ちたような若い女の子」放っておく方がオカシイでしょう! 助けてあげないと、とも思う。アイリスってのがまた今時のナニ考えているか分かんない子で、トラヴィスの前で一著前の女のつもりで「一緒に朝食を食べない?」なんて誘ったりするんだけど、そうやって「気取って頼むメニュー」がトーストにブルーベリージャム塗ってさらにその上砂糖振ったサンドだったりするのだから、そこは本当にガキなのだ。(でもトーストにジャム塗ってさらに砂糖をかける食べ方はUSで生活している昔気質の堅気の女の子って象徴みたいな表現らしいとアトで知った)まるで大人のヒロインのようにふっと男ゴコロを掴む表情と実際に話してみると「日焼けした生意気なクソガキ」の二面性を表現したというので、アカデミー賞助演女優賞にも見事ノミネートされたわけです。だからよく映画観るとトラヴィスはアイリスの内面自身には当然のことながら興味もないし、ほぼ同年代のスポーツのような卑怯な男が許せない、ていう衝動の方がやっぱり強いというのが理解できます。

 二通りの She takes me to~ が必要だったトラヴィス

 トラヴィスは思い余って先輩タクシー運転手に「とにかく自分は何かをやりたいんだよ・・・」という衝動を抑えられないと告白して彼に「おれにはお前の考えてるコトが理解できない」て返されちゃうくらいだからね。それにはまず「何かをやる為に俺様を突き動かす強い動機が欲しい」というのがトラヴィスなの。強い動機ってのは結局「成年に達したファムファタールシビル・シェパード」だったり、「ロリータであるジョディ・フォスター」であったりするしかないのさ。ハリウッドの「俺様」ってのはどこまでも「me」なんだよね、英語圏じゃない人間にはその感覚が分からないんが。で、トラヴィスはどっか「内気な負け犬」意識の持ち主だから本来ならファム・ファタールのみに突き動かされて行動を起こすべきだったのにどうしてもできない。だからいろいろ妄想してあんなに淡々と「周到な準備」までしたのに未来の大統領候補を暗殺するという大犯罪者からは落ちこぼれ、チンケな英雄にしか結局なれなかったのだっ。

 まあ、この辺を説明するのもかなりの「綱渡り」的な努力が必要で、(一歩間違えると「成熟した女とは決して付き合えない幼稚な男の話よね」ってフェミニストに一斉攻撃されかねない)だからあんなラスト・シーンにするしかなかったていう事情もあったかもしれないけど。でも日本人の感覚だと「あそこで死んじゃえばトラヴィスってまだ爽やかな男になれたのにさ」とも思うよ。

 ヴァイオレンス場面に竪琴の音が流れる・・・?

 そんでトラヴィスが売春ホテルへアイリスを奪還しようと「殴り込み」に行く例の有名な銃撃シーンへとつながるわけですが、当時は超残酷と言われた血みどろ一杯だったのにも関わらず、なんか音楽に緊張感がない。用心棒のオッサンがやっとこさ銃に倒れて息絶えるって時に何故だかハープ(竪琴)のアレンジが入ってやしないかい?て部分があってオドロキます。これを当時のアカデミー会員さんたちは「オリジナリティ溢れるスコア」と評価したってことなんですかね。通常のハリウッド映画ではあんまりこの手のシーンに音楽はつけたがらないし、アラン・ドロンのヨーロッパ系アクション映画やマカロニウェスタンだとやたら哀愁漂う扇情的なメロディーのテーマ音楽が流れるところですが、なんか日本映画の劇伴みたいな音楽だわと私はつい思ってしまいました。眠狂四郎シリーズの円月殺法の時に流れる「やたらシンセだかオルガンみたいな連打の効果音」を思い出しちゃった。スコセッシ監督は日本映画も好きで、音楽は何でも好きっ、という方のようでこの映画でも音楽は実に効果的に使われていますけど、「日本映画のBGMの使い方がクールで好き」というそんな奇特なおヒトいるのかな? ・・・まあ単なる私の考え過ぎだと良いですわ。なにせハーマンさんはこの映画で自らサックスを演奏して録音後、12時間後に死亡されてホントにタクシー・ドライバーの音楽が遺作だというらしいんで。単に渾身の作品というだけでハナシが終わった方がいいもんね。