GOALを目指す女 ③ 「バトルオブセクシーズ」のエマ・ストーン

 

 それにしても絶好調なエマ・ストーン、それはまるで・・・

 まるで現在ハリウッドには「エマ・ストーン映画」なるジャンルさえ有るようってくらいに皆エマ・ストーン主演の映画には共通した型(パターン)があるって事なんですね。それは彼女の成し遂げた成功が思わぬ展開を呼ぶ、てヤツ。彼女の代表作であるラ・ラ・ランド スタンダード・エディション [Blu-ray]でもラストのミュージカルシーンに暗示されていたように、エマ・ストーン演じるヒロインがやり遂げた1人芝居の成功が彼女を自身も思いもよらない場所に連れて行ってしまい、彼女自身が変貌を遂げてしまうのですよ。エマ・ストーンが演るヒロインは短期目標に対しては明確だか長期目標については曖昧なのが特徴みたい。比較的日本人に近いといおうかあ(笑)。その代わり映画のエマ・ストーンはいつでも辛抱強いし、気がつくと周囲がアッと驚くような事をやってのけるのですよ。そんな彼女には70年代ウーマンリブ運動の真っ只中に活躍したテニス女王ビリー・キングの役はぴったりなのです。監督は夫婦コンビのジョナサン・デイトンヴァレリー・ファリス、映画「リトル・ミスサンシャイン」好きとホットチリペッパーズのファン、それからテニスのファンにも当然お奨めします。テニス好きにはボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男 [Blu-ray]のなんてのも最近有りますが、ビリー・ジーンだけでなく対戦相手ボビー・リッグス(スティーブ・ガレル)の話でもありますので。

全米テニス協会の設立は1967年

 そんでもって協会が設立して全米の男女シングル選手権も行われたのですが、女子の選手権の賞金は男子選手の8分の1であったのでした。女子チャンピオンのMrs.ビリー・キングは仲間にも促され、協会会長のジャック・クレイマーに掛け合いますが「女子テニスの試合は男子ほど人気がないんだかから、賞金額は順当な結果だろ」といなされてしまいます。怒ったビリーは他の女子選手と共に「女子だけのテニス試合ツアー」という巡業を敢行し全米を回るようになりました。彼女たちは専属のスタイリストを雇い独自のテニスウェアなど作る等工夫を重ねて次第に女子テニスの試合のファンを増やしていきます。1970年初頭はウーマンリブ運動が活発な時で、ビリーのように結婚したり、ライバルのマーガレット・コートジェシカ・マイナミー)のように結婚、出産しても女子選手としてのピークを迎えて活躍したりと、世論の後押しもあり一気に女子テニス界はイケイケ状態になったのです。んでそんな女子テニス界の活況を見て、自分にも再度チャンスが巡ってきたかも・・・と山っ気を出す人物が現れました。それが1967年にテニスの殿堂入りを果たし、普通に行けば「レジェンド」と讃えられても良さそうなかつてのテニスチャンピオンのボビー・リッグス。

テニスコートのペテン師

 引退してNYで金持ち相手との「賭けテニス」なんてのしながらテニスの後にコートでビールを楽しむような毎日を送っていたボニー・リッグス。でも1939年にウィンブルドンでシングル、ダブルス、男女ダブルスの三冠ハットトリックをやってのけた時には彼は21歳だった。家に帰ると妻プリシラエリザベス・シュー)には離婚を切り出されるし息子には呆れられる・・・なんて描写が続くと日本人には直ぐにはピンときませんが、彼の選手生活の絶頂期って第二次世界大戦でバッサリと断ち切られているんですよね。息子は父の事をそれなりに尊敬はしてるみたいだけど、父の選手時代はおそらく知らないでしょう。日本だったら日本プロ野球界黎明期に活躍した沢村投手が無事に兵役終えて帰還してきたようなレベル。これが日本の大河ドラマなら金栗四三田畑政治ごとき主人公になるのにっ・・・まあ、あまりにもエネルギッシュで勝ちに拘る人間だと己の自伝に「テニスコートのペテン師」って付けるしかないのかもしれないが。そんな強靱アスリートでも引退するや昔のファンにテニスコートでビール奢ってもらう程度の扱いになちゃうのが、アメリカのスゴいとこでもあるのかいな。

ビリーはビリーで・・・

 ビリーは夫ラリー・キング(オースティン・ストウェル)との結婚を経てより強くなって全米女子チャンピオンになったって言われている。でも彼女はある日美容師のマリリン(アンドレア・ライスブロー)と出会って交流しているうちに彼女に夢中になっていってしまうのさ。それで少し調子が悪くなって1973年度は全米女子王者の座をマーガレット・コートに奪われてしまう。コートは夫と共に全米テニスツアーを巡業していって生まれたばかりの赤ん坊をかかえてプレーしているから生活かかってんだよね。だから必死さが違う。次第にマリリンとの恋にのめり込んでいって、彼女にビリーはテニスを始めた時の頃の思い出話をするんだけど彼女がテニスを頑張った理由は貧しい育ちから脱出したいという上昇志向からきたものだし、このままテニスを続けていくモチベーションを保つにはどうしても次のチャレンジが必要になってくるんですよね。観ていると何故にそこまで高い目標がないとやっていけないんだろうこの女、て気にもなるんだけど。しかしこういう性質の人間は気がつくと、知らないうちに周囲の人達を巻き込んで影響を与えていくのさ。夫のラリーは直ぐにビリーの不貞に気づくのだけど、相手が女性のマリリンだもんだから、もうどうして良いか解らない。で、最初ボビー・リッグスに「テニスの男女対決試合」を申し込まれてビリーは即断るのですが、何かとお金が入り用なコート夫人はボビーの試合の誘いに応じ、負けてしまいます。その結果に怒ったビリーに新たな闘志の火がともるのでした。

1973年当時の試合を再現、試合以上に「楽天的な」お祭り騒ぎ

 そしてクライマックスのビリーVSボビーの試合になります。ビリーは挑戦を受けるや閉じこもって一人で練習を続け、ボビーはひたすらにインタビューやら自己宣伝やらスポンサーとの付き合い(というかスポンサーからの接待を満喫)に興じます。男女の体力差や持久力の差を考えるとボビーの振るまいは必ずしも奢りだと批判出来ない気もするし、ボビーの周囲も彼にキツくは注意しきれない。あくまでも彼自身が精々みっともない試合運びにならないようにと心配するだけ。試合前のエキシビションとうか、格闘技の選手入場みたいなお祭り騒ぎの様子など今時のテニスファンからみるとあまりにものどか過ぎて驚くかも。この時代の人々はまだ「大阪なおみと引退した松岡修三なら間違いなく大阪なおみのストレート勝ちだよね」という予想が当たり前では無かった、卓越した女子アスリートの技術力や持久力は大抵の非アスリート男子のソレを凌ぐのだと気がついていなかったからです。たとえその非アスリート男子がかつてのテニスの世界チャンピオンだったとしても。

どうしてそんなに「より高いハードル」に挑戦したくなるのさ

 ビリーは男女のテニス頂上決戦に勝ち、開場の皆が興奮状態で彼女を迎えるけど、それを避けて一人ロッカールームにまた閉じこもってしまう。そしてやっと一人っきりで喜びと感情を爆発させるのさ。とびきり嬉しいのは確かだけどこの後自分はどうして良いか解らなくて不安でもあるから。んで、再びコートへ戻っていく。皆に挨拶と内心に決意を秘めて。実話ベースの映画の常としてその後の実在のビリーとボビーの話題が写真と共に紹介されるのだけど、ビジュアルがひたすらに派手で内実は穏やかで慎ましい老後を送るボビーと、地味に語られるビリーの型破りなエピソードの数々の対比もスゴイ。とにかく何でも着実に粘り強い女性はやってる事がいちいち大胆ですね。彼女としては過去の事を感謝して一個ずつお返ししてかなきゃってだけなのかもしれないけど、そうなるんだぁ・・・って感想にはなりました。