振られてもしょうがない女①「恐怖のメロディ」のジェシカ・ウォルター

 一回目に観た時には結構怖かった、二回目にはそこはかとないお間抜け感に・・・そして三回目にはもはや大爆笑?

 クリントイーストウッドさん、また離婚だそうで・・・でもこれでまだたったの2度目の離婚なのだとか。あのソンドラ・ロック嬢とは結婚はしなかったんでしたっけ、あ・・・でもどうでもいいか、その他にも愛人や子供がいっぱいいて、巨匠だし、以前に市長もしてるし。それにこの「恐怖のメロディ」はストーカー映画の元祖だし、これほどなんか焦ってると思われるのが悔しいという女の屈辱感がヒステリックに描かれている映画は後にも先にもないもんね。3回ぐらい観た後にはむしろジェシカお姉さまに快哉をあげたくなっちゃう、なんたってやられるのイーストウッドだしね・・・ややバカっぽいかもしれないけれど偉大なヒーローなのは間違いないからかなりやっちゃっても大丈夫。


 オールドミスなジャクリーン・ケネディか? みたいなお嬢様ストーカー

 人気ラジオDJのデイブ(クリント・イーストウッド)が夜が明けたばかりのバーでひっかけたのが、イブリン(ジェシカ・ウォルター)という美女。私は最初に観た時からもう、彼女ちょっと押しつけがましいかなあと思ったんですが、自信過剰タイプの男からみると、「挑戦的で魅力的」に映るのか、二人はいそいそとベッド・インします。「一夜を共にする」という表現はデイブが深夜番組の担当だからできないんだよね、どうでもいいけど。そのたった一回の情事からイブリンはどんどんデイブの私生活を侵食していくのさ。部屋に押しかけて料理を作ったり、デイブの寝室に忍び込んで寝間着姿で迫ったりするのはまあ想定の範囲内なんだけど、一番すごかったのはイブリンがヒドイ悪態をつくデイブのマネをしてホント嬉しそうにカラカラと笑い転げるシーンね、この時点ではまだ二人の情事のすぐ後ぐらいでデイブも彼女を普通のいい女だと思っていた段階だったので思わず背筋がぞーっとしてしまいます。原作と脚本担当した人の実体験を元にしたストーリーなので、説得力が違うというか、製作者側が意図せずとも70年前後アメリカの若い女性が抱えていた抑圧感を的確に突いているのがヤバいです。イブリンのルックスはブルネットのショートヘアでいつも「ゴージャスなカンジのカジュアル」の服装で決めています。当時の米女性誌によく登場したジャクリーン・ケネディ(当時は確かオナシス夫人か?)みたいな感じなの。そのせいでしょうか、彼女の社会栄達やプライドを満たすには「自分の理想をかなえてくれそうな」男を捕まえるしかないと思い詰めているのがありあり。イブリンとは対照的な存在として登場するのが、デイブの元カノのトビー(ドナ・ミルズ)で、彼女はちょっとヒッピーがかった画家志望の女の子。イブリンに「こんな小娘どこがいいのよ!」と怒鳴られてしまいますが、トビーって娘は実をいうとそんなにイブリンと歳が離れているわけでもないし、デイブから突然姿を消したのも彼にあまりにも振り回されて疲れるから独りになりたかったというもので、内面ではどうやって自立して、自分の時間やポジションを確保しようかと模索しているところなのでした。(だからウィキペディアではトビーは奔放な性格と決めつけられています)なのでイブリンにしろ、トビーにしろ当時の女権拡張運動(ウーマン・リブてやつ)の影響を受けて積極的に自己主張し始めたという意味では似たようなものでして、デイブにとっては「思う人には思われず、思わぬ人には思われて」の恋愛事情が次第にキョーフのメロディを奏でちゃうのでありました。


 ヒーローにとってのより手ごわい「新たな敵」?

 日本でおそらく一番最初に「恐怖のメロディ」を本格的に評論に取り上げたのはあの蓮見重彦センセイでありまして、「歴史的な感動を覚える」という表現からとても難しく始まっています。これを私的にテキトーにいうと、いくら性格最悪といっても女を腕力やっつけるのってヒーローとしては後味悪いおハナシにどうやって最終的にヒーローぽくオチを着けたらいいのか?って果敢にチャレンジしたってことですかね。マカロニ・ウェスタンも一段落して帰国後、タフガイ=イーストウッドに立ちふさがる「新たな敵」が必要だったんですが、何故なのか「敵を女」ということにしちゃった。これ以前にバーの主人(監督のドン・シーゲルが友情出演)と組んだ白い肌の異常な夜 通常版 [DVD]という作品が思いがけず反響が良かった(米国ではなくヨーロッパでヒットしたとか)のもあったのか「ひょっとしたらイーストウッドVSおっかないヒステリー女ってありかも」って考えたのかもね。もともとTVシリーズのローハイド シーズン1 DVD-BOXだって、役どころは「向こうっ気も正義感も強い若者だけど、女には弱い」でアクションスターとしちゃどっちかっていうと線が細いタイプ、でも強烈に理不尽な主張をしてくるヤツには負けない、せいぜい突っ張るよ。だって女だろうが、何だろうが、イーストウッドさんは理不尽な敵に負けず劣らず自己中でタフな御仁だからさ。そうして「己の敵はヒステリー女」なんていう当時はキワモノでしかない題材できっちり「サスペンス映画としてのヒーロー像」を何とかにやりきったイーストウッドさんはダーティハリー [Blu-ray]シリーズで次のステップへと進んでいったのでした。イブリン役のジェシカ・ウォルターもこの映画と同時期に「女囚の群れ」(ロジャー・コ―マン製作でジョナサン・デミ監督)に主演、この二作で「男社会のハリウッドで生き抜く女闘志」としてのマニアックな名声を勝ち得たみたいです。(梶芽衣子さんみたいな人だと思えば良いかも)たまたまジェシカ・ウォルターやイーストウッド自分たちのキャリアに関する模索もあったためか、「タフな男VSしぶとい女」というケッタイなヒーローものでクリント・イーストウッド初監督作品は製作され、その後はこの手の映画のトレンドは続きませんでした。しかし90年代に入ると、イーストウッドよりもずっと若手の監督たちが一斉に「本当の敵はしぶとい女」を課題としたヒーローものに挑戦するようになります。もっとも「男VS女」なんて単純な形ではやってはいませんが。