特撮美女!!⑩ 「ロボコップ」のナンシー・アレン

 ロボコップ」第一作は(私にとっては)いまだ解けない謎だらけ

 ポール・バーホーベン監督作品としては出世作にして代表作、そしてバーホーベンの映画としては確かな知性の輝きが感じられる唯一の映画なのが「ロボコップ」。だっておかげでそのあとの氷の微笑 [Blu-ray]とかスターシップ・トゥルーパーズ [Blu-ray]といった映画の格も上がっているカンジが明らかにするもんね。「氷の微笑とか透明人間のエロリメイク映画とか喜んで作っている人間のどこが知性派なんじゃ」「いやあ、あの手のエロシズムやブラックユーモアはヨーロッパ的な文明観や知性に裏打ちされてるのかも・・・」と多少の議論があるのがバーホーベンさんだったのですが、昨年アメリカの誇るカルトな巨匠モンテ・ヘルマン監督のインタビュー本が出版されて、「ロボコップ」の一部演出(特にアクションシーン)を担当していたことが公になってしまいました。じゃあ「ロボコップ」に漂うあのなんとも言えない乾いた寂寥感と深遠な文明観があるって気がしたのは何だったの?・・・ていう映画ファンの疑問がこれで一部解けたということになるのでしょうか(笑)

ナンシー・アレンはいろんなコト考えながらずっとガムを噛んでいるのだっ

 ナンシー・アレンというと元ブライアン・デ・パルマ夫人(殺しのドレス (2枚組特別編) [DVD]のヒロインで有名)のイメージが強いヒトもいるかもしれませんが、ロボコップの全3部作にわたって登場しています、役名はなんと「アン・ルイス」巡査というのさ。主人公の警官で後にロボコップ化するマーフィーの相棒っていうだけなのですが、何かとマーフィーの世話を陰でせっせとしている印象が好感度高かった。彼女は一見無表情でしょっちゅうガムを噛んでいているのだけど、それは多分性格がどっか優しいのが悪人にバレたら困ると思っているからかもしれません、そして男たちにちょっと舐められても平気、その方がいろいろ気を回して出し抜くのもバレずに済むもんね。(だってクラレンス一味に弱い女と思われていたからマーフィーはロボコップで復活できたんだし)女だてらに凶悪犯と闘っても危なげなくそれでいて、これみよがしに男勝りを強調しない、なんだかしっかり者の下町娘みたいなのがSF特撮ジャンルに出てくるのがヴァイオレンスだらけのロボコップシリーズの中でも一服の清涼剤だったのでした。何かとフェミ系の方々には評判の悪い特撮ジャンルの紅一点の典型的ヒロイン像に似ていても絶対非なるキャラクター。「ロボコップ」の脚本を書いたのは当時ユニヴァ―サル社の重役さんだったそうですが、この方もともと日本の特撮や昭和日本のサブカルチャーに影響されてたということはないのかなあ? (だってヒロイン名アン・ルイスだよっ)でも事前にロボコップのデザインが宇宙刑事ギャバンのコスチュームに似ているっていうんで日本のバンダイに認めてもらいましたってぐらいしか日本との関連が出てこないんだよね・・・ところで話をナンシー・アレンに戻すと彼女にガムを噛むように指示して、より血肉の通ったアン・ルイス像を演出したのはどっちなのでしょう?・・・確実にバーホーベンじゃないよね(だいたいこっちのセンセイはアン・ルイスみたいな女は好きそうにないもん)、ロボコップになったマーフィーに過去の記憶の断片が残っていて、ガンマンみたいにくるくるって回しながら銃をホルダーにしまうのを発見したアンは「あなたきっとマーフィーなのねっ」て気が付くんだけど、こういうベタな芝居をちょっとだけ感動的に演るって難しいと思います、やっぱモンテ・ヘルマン監督じゃないと。

 ひたすら孤独でストイックなマーフィーとやたら仲良しで皆楽しそうなクラレンス一味

 マーフィー役のピーター・アレンはなんと禅宗のお坊さんだそうで、今現在毎年必ず来日しているそうだわ!(もちろん映画の為じゃなくて修行の為・・・スゲェ)今回書くために検索して一番驚いたコトなのどうでもよいけど、でも禅宗に入門する決断のきっかけにロボ・コップ主演ということがあったら面白いですね。ロボコップの思わず「キーン、ガシャン」とか擬音つけたくなる歩き方に哀愁を感じますが、仏教の修行にひょっとしたら通じるんかな。映画全体に働き蜂的月給取りの悲哀と野望と妄想がてんこ盛り(脚本書いた御仁は高級取りのビジネスマンなのにっ)でなんか働く男凡ての煩悩を背負ったかのようなピーター・アレンの演技は警官の時からなにかずっとストイック過ぎて哀しげです。そんなマーフィーが警官でいる時に序盤の山場になるクラレンス一味との銃撃戦やカーチェイスが(本当は)ロボコップでは見ものなんだけどね。対するクラレンス一味の方はすごく皆タフで結束力が強い、メンバーそれぞれもアクが強くて顔はあんま怖くない分、イカレ方が危なすぎる悪役商会て感じです。だから一味に捕まってそれでも精一杯悪党に口答えするとか、銃で身体ズタズタにされるとか観ていて本当に哀しくなってくるのさ。なんで監督が撮影時に二人もいたのか、その辺の大人の事情がよく解かんないのですが、これはワタクシの想像なんだけど当初「脚本の内容が最低だと一流の映画監督に断られて」そんならそれでと当時無名&干され監督二人同時に撮らせて実質監督のオーディションをやってたということなのかな? で、結局バーホーベン側が勝ったと。昔からハリウッドは監督ともめて撮影中に降板しても交替して完成させた監督じゃなくて最初に契約した監督がクレジットされるなんてのもよくありましたが、ロボコップの場合は「俺がくだらない脚本をなんとかしたからヒットしたよ」・・・と映画宣伝で来日した方の監督さんが自画自賛していただけだったのさ。で、映画の内容に戻ると「悪役クラレンスご一行サマ」は皆仲良しでタフでさ、悪ノリシーンも良かったんだよ。一味の一人のスキンヘッド(彼は後にTVシリーズ「ER」のロマノ外科医部長になった)がガソリン・スタンドで遊びがてら強盗してロボコップに報復されそうになるとかさぁ(でも一味の皆ロボコップにやられそうになっても全然平気なの)、警察につかまって血ぃ吐いても怒りでギンギンになってるクラレンスとかさ。そのせいか後にロマノさんだけじゃなくこの一味の中から他のヒット作でも悪役で成功する役者がでてきたの。かなり複雑な撮影時の状況で何故主役コンビをはじめ悪役一味まで役者陣の結束力や高い演技パフォーマンスがあったのか、なんで二十年以上経ってますます傑作と言われるようになったのかワタクシには本当に謎だわさ。ちなみにクラレンス一味の役者さんのなかにはモンテ・ヘルマン監督の最近の映画にも出演しているそうで、どっちの監督が役者さんたちに好かれていたのかはなんとなく解かりますけどね。

スターシップ・トゥルーパーズ [Blu-ray]

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 散々に言っている割には・・・

 実を云うと、この映画結構私も好きでした(笑)、徹頭徹尾カラッカラにドライなのが良いです。この映画の原作がロバート・ハインラインの「宇宙の戦士」という名作SF小説だっていうのが信じられないくらいのノリ。バーホーベン監督って本当に些細なことは気にしない♡ヒトなんだね。