何だか不運な女⑧ 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のシャロン・テート

  

 

 

 それでも2019年の米国映画のベストワンと言う人はあんまり居ないかもしれない

 さすがにタランティーノだね、爽快で楽しかった♡という声の方が大きそう。公開初っぱなからは「ラストまで観るとタランティーノは本気で怒ってんじゃないのか」みたいな評価もあったみたいだけど。私には観た後しばらく経ってから、この映画の各演技陣の緻密なビジュアル戦略に驚くようになった。(それでもまだオスカーノミネートは監督賞、作品賞ではないんだろうか)単に洒落てるとサブカルな背景をバッチリ描き込んでいる&批評になってるというレベルじゃない。もしも誰か機会があったのなら「貴方は日本映画びいきで有名ですが、今回の映画の1969年以降にテルアビブ空港など数々のテロ事件を起こした日本赤軍の事も調べたのですか?」とタランティーノに聞いてみて欲しい。んで、主人公コンビのリック・ダルトンレオナルド・ディカプリオ)とクリフ・ブース(ブラッド・ピット)のビジュアルでも特にブラピのアロハシャツ姿は今まで個人的に観た映画の中でも最高級の似合いっぷりです。

生け贄レベルの不運な女

 不運な女って映画で始めるヤツだとどの映画でも「生け贄」レベルなんですが、今回は現実が物語/フィクションを超えちゃったケースです。で、僕たちの失敗は結局何だったのかを考える映画として作っているのが判るので、大して昔の事を知らない若い人達にも検索して予め知識をそれなり仕込んどいた方が、ドキドキと急転直下の安らぎと満足感に浸れてラストが終了するので、いつものタランティーノ作品の中でも長くても苦痛度が少なくて済みます。いろんな時代背景の小道具がいっぱいあるので「1969年の映画なのに明日に向って撃て! ―特別編― [DVD]みたいなのあるのって何なんでしょう」とか聞くヤツが出てきても「そうなんだよね、ハリウッドがシャロン・テート事件を防げなかったのはさ、ブッチとサンダースをハリウッドが発明出来なかったからだと思ったんだよね」とか平気で返してきそうなのがタランティーノだと、私は映画鑑賞中に脳内にソレが走ってしまいました。

とっても善い人だとは思うのに

 私は90年代からブラッド・ピットは知っていて、でも私が知っている映画の中のブラピはトゥルー・ロマンス ディレクターズカット版 [Blu-ray]での印象が最初で、確かにカッコいいんだけど何かがヘンな人という漠然とした印象しかありませんでした。その次に観たのがセブン [Blu-ray]だとブラッド・ピットは一生懸命演っているとは思うのですが、犯人役のキャラクターが映画の途中でいきなり「やあ初めまして僕が犯人です」って自己紹介するがごとき場面が個人的にすごい不快で、そっからブラピという人に対してよく分からないんだけどなんだか不吉な男というイメージが強烈に焼き付いてしまいました。その後の12モンキーズ(Blu-ray Disc)バーン・アフター・リーディング [Blu-ray]オーシャンズ11 (吹替版)と続くブラピをまとめて感想を言うとしたら、一生懸命働いているのに何故か「映画の中のブラック・ホールと化す」か、映画自身は普通なのに何故だかブラピだけ怠けているような気がしてならない・・・という気がしてならず、「(よく分からないんだけど)とにかくブラピ様はより同年代の監督や彼の活躍に刺激された年下の人達と組んだ方が良くなると思うよ♡」な結論に達したのでした。んで長々と連ねましたが、今回ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドでのブラピは善い人なのに何故だか不吉な人というキャラクターが計算間違いの事故では無く必然として輝いていて長年のブラピに対するこちらの胸のつかえが下りてすっきり大満足でーす。そしてプッシーキャット(M・クアリー)とのやり取りや、その後のスパーン牧場主(ブルース・ダーン)とのシーンは絶品。2人の年齢が片や第二次世界大戦の英雄だった中年男におそらく19世紀生まれの老牧場主という組み合わせだと気がつくと、2人の男の度外れたまでの暢気ぶりがむしろ恐ろしいです。だってクリフと牧場主がうきうきしちゃうのは米国史上最も有名なカルト集団のマンソンファミリーのガールズ(ダコタ・ファニングやらレナ・ダナムもいる)なんですから。しかも彼女達ったら映画の始めには花咲く乙女たちが歌いながらゴミをあさるという麗しいのか不潔なのか何だかよく分からない雰囲気で登場いたします。

哀愁の花びらのヒロインで有名なシャロン・テート

 映画でも登場するのですがシャロン・テートマーゴット・ロビー)の演じた役柄で一般的に最も有名なのが「哀愁の花びら」ってメロドラマの女性映画に登場する、美貌だけが取り柄で演技があまりにもド下手な為に結局無修正のポルノ映画に出演したあげく乳がんで死んでしまうという、陳腐までに悲劇的な女優の役なのです。が、映画の新婚の彼女は夫ロマン・ポランスキー(ラファエル・ザビエル)の為に「テス」の原書を手に入れたり帰りには1人で自分の出演した映画を劇場で見に行ったりして、とっても明るくポジティブで楽しそう。自分が特に力を入れた(実際にかのブルース・リーの指導を受けてる、映画ではマイク・モーが演じています)女同士のカンフーシーンで観客が大喜びするだけでその後1日ハッピーな気分になって家路を急ぐ。この1日のエピソードに「夢のカルフォル二ア」の曲がかかるだけで観ているこっちも胸が締め付けられます。マーゴット・ロビーの演技も含めてシャロン・テートの描き方を問題視する厳しい声も一部カンヌ映画祭では有りましたが、台詞をいっぱい言うだけが演技では無いという事を皆さんしっかり観て欲しいです。それに実在のシャロン・テート演じたような「演技のド下手な女優」などとゆう難役を引き受けた彼女の存在を悲惨な事件の被害者というだけの扱いから解放するのに見事成功したと言えるでしょう。シャロン・テートは終盤のちょっとしたエピソードも含めてとにかく秀逸という他ありません。

レオ様の髪型

 んでやっと最後に主人公リック・ダルトンレオナルド・ディカプリオ)になります。50年代のTV西部劇シリーズが終り。役者としてのキャリア模索に苦闘する姿は滑稽や悲哀に満ちていてもおかしく無い筈、なのに彼自身をとりまく女性陣のキャストはマイキー・マディソンやジュリア・バスターズ(日本の我々にはなんかスゲーなこの娘たちって印象で終わりますが、2人ともUSAのTVコメディーシリーズではおなじみの新人/ルーキーみたいです)の存在感のおかげで大物スターの日常にしか感じられません。しかもリックは自分かの名作大脱走 製作50周年記念版コレクターズ・ブルーレイBOX (初回生産限定) [Blu-ray]にS・マックィーンの代わりに出演している夢想するシーンまで登場する始末。おまけに何だか「ワンス・・・」に登場するS・マックィーン(ダミアン・ルイス)は大スターのなのにリックより何だか地味に登場する念の入れようなのです。70年代で一世風靡したスターと70年代から今も現役で活躍するB・ダーンやA・パチーノまでキャスティングされて、リックの最後の見せ場まで盛り上げていきます。

 ちなみにマンソンファミリーの一員を演じるマイキー・マディソンはまるで日本の連合赤軍の女性活動家のようなビジュアルで私は当初は彼女のことアジア系の血を引いた女優さんなのかと勘違いしたくらいです。マンソンファミリーの団体への考察と事件への考察を考え合わせた上で監督が判断した演出だと私は考えています。まるでJ・ギャグニーみたいなリックがマイキー嬢に火焰放射機をぶっ放すシーンが2人の演技人にとってキャリアの最高のパフォーマンスの一つと讃えられる事を願ってやみません。 </p>