ヤサグレ女列伝 ⑤ 「恋におぼれて」のメグ・ライアン

 メグ・ライアンにしてはかなりヤサグレているよ

 とにかく最近は「整形なんてしなきゃ良かったのに、あんな老けちゃって・・・」という話題しかないメグ・ライアン。彼女以上に整形しているのにシレっとして主役張って活躍している方もおられるのにねぇ、最新のポートレート写真で観る限りはお顔より身体の老け方がひどくて「ベジタリアンだからって高たんぱくの食事をとることは可能だろうに」とか「そんなに更年期がキツイのか」などということが気になります。メグ・ライアンの場合は90年代にノラ・エフロンとのコンビ作が当たり過ぎちゃってその後二人して一緒に失速していったイメージが強かったのからかなあ。ノラ・エフロンさんは昨年お亡くなりになり、改めて惜しむ声も多いのですが、2000年頃から「物欲も性欲もギンギン」という御盛んなセレブ・・・というトレンドに移っていくうちにメグ・ライアンが体現するような普通っぽい恋愛体質の女性キャラはブリっ娘過ぎて飽きられたのかもしれません。メグのライバル格だったジュリア・ロバーツサンドラ・ブロックと比べても可憐な雰囲気の分何故だかセックスの面で押しが弱そう? なのが欠点ともいえるのか、それを「あえて逆手にとった」戦略が成功している映画です。いつものメグ・ライアンが好きなヒトには多少下品かもしれませんが、ちょっとエキセントリックで毒舌な彼女も十分可愛いと思いますよ。

 
実はヒッチコックの「裏窓」のパロディみたいになってるのだ

 映画は田舎で天文学者をしているサム(マシュー・ブロデリック)が婚約者で小学校教師のリンダ(ケリー・プレストン)がNYに出張かなんかに行くのをニコニコしながら見送るのところから始まる。その時のサムはあまりにハッピーそのものなので、全編通して「メグ・ライアンよりケリー・プレストンの方がいい女じゃん」という印象をぬぐえなくなるまま鑑賞を終える男性もいるんだそうだ。(男性にとっては)まあその感じも理解できるかな、だってその後しっかり者で清純そうだったサムの恋人はNYに渡った後いきなり手紙で別れを告げ、慌ててサムが彼女を探しに行くと新しいオトコを作ってて二人の激しいセックスの真っ最中に出くわすんだもん。リンダと同棲を初めたフランス男のアントン(チェッキー・カリョ)はサムとは似ても似つかないワイルド系だしね。見るからに実直な草食系男子のサムにとっては激しい劣等感と今までのアイデンティティ崩壊のどん底に突き落とされるのでした。パニックに陥りながらも目の前で起きていることが信じられないサムはリンダたちのマンションの真向かいに部屋を借り自分の望遠鏡で恋人たちの新居を覗き始めちゃう・・・マギー(メグ・ライアン)はそんなサムがリンダたちの同棲を知ったり、覗き部屋を確保しようとする際に「見るからに謎の女」として登場するので映画のOPから15分ぐらいしてからNYの暗闇をオートバイに乗って登場するという具合。マギーはアントンの元カノで自分を捨てた男に復讐するために機会をうかがっていたのでした。しかしマギーにしたって田舎育ちのサムにとってはいささかうっとおしい女、ガリガリで黒いアイライン目いっぱい引いた眼だけデッカイアート系のインテリブスにしか見えないもんね。彼女がアントンについて巨根だのなんだの下ネタトーク連発すればするほど能書きばかりで色気がゼロなカンジが伝わる・・・これだから男に逃げられるんだよっていう。だからサムとマギーは一つの部屋二人っきりでリンダ・アントンの部屋を監視しながらカップルに対する復讐を考えるのですが、そこではお互い男女として意識し合うところはありません。男女が望遠鏡で向かいの部屋を窓から覗くなんてまるで裏窓 (Rear Window)[Blu-ray]みたいなシチュエーションですが、かのグレース・ケリーがジェームス・スチュアートの部屋へ勝手にお泊りする時に着ていたような「可愛い木綿のネグリジェ」なんてのはマギーは当然持ってない。実をいうと「木綿のネグリジェ」姿を映画ファースト・シーンでリンダが披露していて、それがサムにとっては「もっとも憧れる女性の理想像」だったりします。中盤このリンダが持ているネグリジェが小道具になってサムとマギーの関係が変わるきっかけになるのですが(まあそれも観る方多くが抱く想定の範囲内のエピソードではありますが)映画観て楽しんでくださいよ。

 「レトロ系」のロマンチック・コメディーで90年代をけん引したのが

 要するにメグ・ライアンという存在だったんですよね。「恋におぼれて」が「裏窓」のオマージュになっているだけでなく、めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [AmazonDVDコレクション]は名作メロドラマ「めぐり合い」が下敷きだし、ユー・ガット・メール [Blu-ray]はジェームス・スチュアート主演でも有名な街角 桃色の店 [DVD] FRT-143のガチなリメイクです。恋人たちの予感 [Blu-ray]で彼女がブレイクした時に「カサブランカのヒロインはただ酒場の女主人になりたくなかっただけよっ」というセリフが有名になったのがきっかけだったのか、メグ・ライアン主演=懐かしレトロなプロットを焼き直したロマンチックな映画というブランドイメージが確立したのでしょう。ウィキペディアによるとメグ・ライアンは出演作品の選び方が悪いということで有名なんだそうですが、私そんな気がしませんけどねぇ。むしろ「自分にしかできないコト」を90年代にやりつくしたその一方で、年とっても主役格であり続けられるような新たなイメージチェンジ急ぎ過ぎたのが後の低迷の原因じゃないかと個人的に考えております。

 恋人チェンジで、めでたしめでたし

 日本だとこういうの、「テラスハウス」ぽい展開じゃねえかって最近は嫌うヒトもいますけどね。アメリカ人は移動が好きな国民なのでせせこましいシガラミは物理的にリセットしてしまうから「男女なんて相性しだいでくっつけばいいじゃん」で納得するのでしょう。サムとマギーははずみでオカシナことになっちゃってもリンダ・アントンへの悪戯というか復讐行為をムキになって続けようとするのですが、そのうちマギーをよく知っている(いとこだか友達なのかは忘れたが)ナナ(モーリン・ステントン)が現れてマギーが故郷の家族と疎遠になっても一人NYで夢を実現させようと必死になっているのがわかってくるとか、二人の悪戯で骨折したり、かゆみかなんかで悶絶するアントンの姿を見ていてだんだんとサムの心が変化していくのさ。そんで映画のファースト・シーンを振り返ってみると、最初サムがにこにこしながら見つめているのは彼自作の天体望遠鏡で場所はそれ自体が結構な施設内だったりしたでしょ? つまりサムにとっての理想卿というか人生は自分の夢を思いっきり突き詰められる環境とロマンチックな木綿のドレスが似合う彼女がそばにいること。そういう人生を送りたいならひょっとしたらリンダとよりもマギーと一緒の方がしっくりいくのかもしれない。リンダは夢を追うタイプの男よりアントンみたいな日常の生活を一緒にエンジョイしようとするモチベーションのタイプとの方が上手くいきそうだしね。「恋におぼれて」監督のグリフィス・ダンは演出もできる名バイプレーヤーというお方のようで、役者のキャラクターは皆はっきり、いきいきしています。登場人物の行動を丁寧に見ていけばそんなにイージーに展開している映画ではないよ、そうでないとちょっとどぎつい所から始まって、軽やかに映画が終わることなんてないもんね。