「9・11」をそっくり予告しちゃったので最早TVの地上波では観られない映画
として一部で有名です、イマ観ると「なんかごく普通の娯楽映画だってだけじゃん」と思うことも多いのですが。米国の原題は「SIEGE(包囲)」といって邦題よりゆるい表現で気を使っているようですが、ファーストシーンに登場して拉致される教主さんはまんまビン・ラディンだし、あちらの方からしたらあまりにも挑発的というかそりゃあ怒るよぉーて気もしますわな。映画原案と脚本を担当したローレンス・ライトはノンフィクション作家として元々この話題についてはかなりの専門家のようです。後に2007年に「9・11」に至るまでの著作でピュリッツアー賞をもらいました。監督のエドワード・ズウィックはこの映画で干されそうになったのですが踏ん張って日本じゃかのラスト サムライ [Blu-ray]で有名。「マーシャル・ロー」の場合は日本人には不慣れな中東の複雑な話なのになんとか筋を追うことができます。これは主役3人(FBI捜査官のデンゼル・ワシントン、将軍のブルース・ウィリス、CIAのアネット・ベニング)の立場と主張がとにかくやたらはっきりしていることにあるからでしょう。これが「ラストサムライ」になるとなんだか「論旨がぐずぐずでおセンチ」に走りすぎているような気がするから不思議なもんさ。どっちもスケール重視の大作なのに取り上げる題材によって映画の雰囲気が変わるってのは「リアルを追及する」ってことなのね。ただワタクシこの映画最初に劇場で観た時「主人公が御上の権力なんかクソ喰らえの町方同心VS偏狭な野心に取りつかれた幕閣老中VS凄腕のくの一」と考えるとすっきりするわー、と理解してたよ、何故だろう?(笑)
NYで連続爆弾テロ勃発
ある日NY市民がいっぱい乗っているバスに爆弾を仕掛けたと通報がありFBIのハバート捜査官(デンゼル・ワシントン)やフランク(トニー・シャルーブ)らが駆けつけるといきなりバス内で青いペンキが破裂して乗客ペンキまみれになるという事件が発生、犯人からは「彼を解放しろ、我々の最初で最後のメッセージだ」というやつ文書が残される。でもハバート達には「彼」って誰のことなのか「我々」とは何者なのかは判らない、中東のイメージカラーっていうと青よりは緑だしさあってなもん。ただいたずらみたいなペンキ爆弾事件について嗅ぎまわっている変な女エリース(アネット・ベニング)が出現したのでハバート達は警戒し始める。エリースは「自分はNSCという機関の単なる調査員で許可をもらってるし」って言い訳するのだけど、彼女どうみたってCIAなんだもん。そのうちに本気のバス人質事件が起こり、人質含めて犯人自らも爆死するという惨事にみまわれる。エリースが警告する「奴らの目的のひとつは自らの犯行がマスコミに大々的に報道されること」というのもハバートには違和感を覚えるのだけだし。とはいえハバートもエリースも、まさかFBIに面会してきた軍の大物デヴロー将軍(ブルース・ウィリス)がテロリストたちが強烈支持する教主を政府にも内緒で拉致監禁しているなんてことまで頭が回らなかったのさ。とりあえずハバートはFBI独自の捜査で中東からの不法入国者にビザを与えている大学教授サミール(サミ・アジーラ)にまでようやくたどり着く。エリースはこのヒトならゼッタイ事件に無関係と言い張るのですが、それはエリースがホントはCIAのシャロン・ブリッシャーという工作員でサミールは湾岸戦争時代からの協力者だったから。ついでに言うと二人は愛人関係でもあるからですね。
「70人の処女とヤレる状態」・・・ってのは果たして天国(パラダイス)なのかい?
サミールはずっとベイルートの難民キャンプで育ってきたの、そして彼の弟は教主のグループの自爆テロに参加して十代で死んじゃった。「殉教者になると天国で70人の処女が出迎えてくれるっていう教主の言葉を信じて喜んで死んでいったよ」とサミールはシャロンに言うのさ。それに対して自由の国米国へ脱出した兄貴の自分は女とベッドでワインを飲む生活ができるようになったから、いかに「70人の処女」ってのがバカバカしい幻想なのがよく判る。「豊かである」ということは物資や便利な生活っていうこと以外にも、例えば「いくらなんでも処女だけ70人とはできないよねぇ」って百人斬のスケコマシと童貞が同様の感想を持つくらい、発想や情報についての自由が保障されていることにあるのかも、ただこの映画99年の製作でインターネット経由のおかげで情報が溢れすぎちゃっている現代とはこの辺やや状況が違ってはいますが。先進国で生まれ育ったのにも関わらず閉塞感にかられた「ある意味難民」状態の若者たちがテロやりに中東へ渡って行くようになったし。そして若者の中にはイマドキ処女と家庭を持つチャンスを得るにはイスラム教団の兵士になるのが一番の近道だと思っている輩もいそう。だってシャロンみたいな先進国の権利意識ばりばりの女性は回教徒のサミールにとってはヤラセてくれるから却ってやっかいなんだもん。ほんとサミール同様回教徒でレバノン出身のフランクにすれば、「ポルノより過激」な二人の営みなんですが、シャロンにはそのことが結局のところわかってなーいのだ。
存在自体が「危険なハニー・トラップ」
シャロンのお父さんはベイルートのアメリカ大学で経済学を教えていたので幼いころから中東で育った、その環境が彼女自身を作ったようなもんだから誇りにしている。彼女が「強い信念を持って社会を少しでもよくしたい」と思っているのもたぶん真っ向本気。おそらく彼女のお父さんが教えている経済学はマルクス系だったんだろうし、彼女自身はかなり左翼よりのリベラルでフェミニストで十代の時からボーイフレンドは中東の男。こうゆうアクが強い程濃いキャラクターの女性の役はハリウッド映画といえどそうは無いですし、アネット・ベニングぐらいでないと務まりませんね。日本で言ったらむかーし全共闘上がりでパレスチナまで行っちゃうような女の人に匹敵しますわ。彼女がサミールを評して「アメリカ人ともアラビア人とも寝るようなものよ」と言ったり「善と悪はすぐにわかるわ、やっかいなのは善に近い悪よ」と意見を述べたりしますが、ソイツは皆「お前さん自身」ことじゃねぇか!!って観客一斉に突っ込みしたくなるような事実がそのうち明らかになります。シャロンは工作員として湾岸戦争時代にはCIAの持つ諜報活動のノウハウや爆弾の造り方までサミールや教主たちグループに教えていた。アメリカの方針が変わって教主たちは裏切られ放り出されたと感じたから、テロリスト達はアメリカに今度は復讐しようと牙をむいたのさ。実際のビン・ラディンやアルカイダとほぼ同様の設定ではありますが、このCIA側の人間を「アメリカン・ビューティー」ならぬ「アメリカン・ビッチ」というか女性に託したのでアメリカ諜報活動のヤバさがダイレクトに伝わってきます。確かにシャロンは信念の人で諜報活動に利用する人間に対しても敬意を払って彼女なりには誠実に接しているつもりのようですが、「アンタのお母さんに異教徒の女と寝ていることをバラすわよっ」なんて脅しをかけるのでさすがに「男のメンツをぶっ潰す」ことにはなんの躊躇もないようです。(笑)私アネット・ベニングは結構好きな女優さんの一人で、悪気はないのに彼女と関わる男性を何故だかぶっ壊していくという役柄を演ると、断然輝くから不思議です。グリフターズ/詐欺師たち [Blu-ray]ていう作品で初めてアネット・ベニングを観たのですが、この映画なんだかわからないけど超大好きで派手なギャルっぽいオンナ詐欺師の彼女もサイコ―でした。いかにも優しそう、それでいてなんか尖がり過ぎていて危険・・・私生活ではウォーレン・ビューティー夫人で子供4人もいるそうなので、あんまりアネット・ベニングのファム・ファタールっぷりが観られないと残念がってもしょうがないかも。むしろかなりいい作品を粘って選んでるので出演映画にはずれが少ない方かもしれません。オスカー(主演女優賞)ノミネート二回、ゴールデングローブ賞ゲットと、手堅く活動してます。それにこの映画でアネット・ベニングがCIA工作員を演ってから、ヒロインがCIAという映画が格段に増えました。焦った関係者が「実際に女性CIAのスタッフがハニートラップをじかに仕掛けることはありませーん、そんな仕事しないから安心して」とアナウンスしても彼女たちロマンスがらみで描かれることもしばしばだねっ。