女学生の映画 ② 「ミス・ブロディの青春」のマギー・スミス他

 

  「別学」の学校の方が実は大人社会の縮図を映すコトが多い

 と言っても何それ? て大抵の人間は思うでしょう。同性のみで隔離された十代を育った男女は現代だとより世間知らずで恋愛や結婚についても不利なことが多しと考えられていますもんね。でも「縮図」だからこそ第二次性徴期にある若者たちにとっては安心して大人の行動のロールプレイングができるし、「大人社会」についての洞察や批判精神ものびのびと育つのさ。ちなみにDVDにあるストーリー紹介では・・・

 「伝統か進歩か、協調か個性か。1930年代厳格なイギリスの女学校で教育に自らの青春をかけた女教師が、一人の女学生の罠に落ちる。」なんてことが描かれていますが、とにかく鵜呑みしちゃ駄目だから。このキャプション自体が大いなる皮肉になっているといういかにも英国的なブラック系学園コメディです。数々の映画やTVドラマでもお馴染みのマギー・スミスお婆様の若き日、堂々のオスカー(主演女優賞)演技ですし、ヒロインのミス・ブロディは日本人が通常イメージする独身ハイミス像からは相当ぶっ飛んでいるのでびっくりするよ。なので現在女子校に通っている貴女だけではなく男子校の皆さんにもおすすめ。女学生役のパメラ・フランクリンのヌードもあるし恋愛の会話も本気で「性欲ギンギン」にやってます。くれぐれも【初回生産限定】ハリー・ポッター ブルーレイ コンプリートセット [Blu-ray]のことは思い出さないで観ておくれ。(笑)

 

 私の青春(the prime)は少なくとも定年50歳までは続く予定なのよ!!

 ミス・ブロディ先生は自分の教師という仕事が大好き「若者の身体に老人の知恵を、生徒は私の子供」なんていうのが口ぐせ。保守的な女学校の教育方針に反発して生徒たちに美と芸術を教えているこの時が、先生にとっての青春。そしてそれは決して負け惜しみでは無いんようなんです。第一次大戦の折に死に別れた恋人との激しい恋愛を糧に生きているから現実の恋愛に関しては興味なし。でもその後すぐに同僚の美術教師テディ(ロバート・スティーブンス)と3年前から不倫していることが映画の中でバラされちゃうとか、冒頭のプロットで物語の舞台が1932年のエディンバラだってのが知らされるので、どうみても30代で上品なお色気全開のブロディ先生ったら、先の大戦時の悲恋の時年齢おいくつ? とか美術教師との会話によるとどうもテディ先生が彼女の初めての男性だったようなのに、不倫に執着しているのはむしろ既婚者のテディ先生の方みたいとか、いろいろ「謎」が噴出してきます。ブロディ先生に取り巻いているクラスでもオシャマさんたちな4人組(ブロディ組と呼ばれている)の女の子たちも薄々それに気が付いている。彼女達はブロディ先生を一見崇拝しているように見えてるけど一方で割と冷静(そしてちょっと意地悪く)観察しているの。この女教師と女学生たちの距離感が絶妙なのが良いし、いい歳したオバサンが観ると前半のローティーンな女の子達の呑気な学園生活がとても楽しそうで懐かしいです。数年時間を懸けて撮影されてたようで、女学生サンディを演じた当時の人気子役パメラ・フランクリンの少女から大人の女性への移り変わり(そしてその中にヌードとかちょっとした絡みのシーンも出てきます)と内面の成長を演じるようになるまでが観てとれるのです。・・・そして当のブロディ先生も「何だか変わって」きます。やっぱりどっか欲求不満だから? でも普通のヒト(特に普通の男)が想像するような欲求不満の類じゃないんだ、彼女の場合はっ。

 

 ミス・ブロディにとっての「人生ただ一人の男性」とは誰なの?

 不倫の清算にやっきのブロディ先生は独身の音楽教師ゴードン先生とブロディ組と一緒に結婚を前提とした交際を初めたと思ったら「セックスはしても良いけど結婚は厭なの」と主張してみたりするのだ。傍から眺めているブロディ組には徐々にブロディ先生の思考が読めなくなる。サンディは思わず「先生の青春は結婚するときに終わるのよ」と言ってみたりするのだけど、それがどんな意味を持つのかは彼女にも当初分からないのさ。そのうちにブロディ組の仲間のジェニーという娘に対して「あなたはもう少ししたら何人もの男を虜にする奔放な恋多き女性になるわ」とかオカシナことを言いだして、あろうことかジェニーをテディ先生に宛てがおうとしてるみたいなのさ!これにはサンディは頭にきちゃった。だってジェニーって堅実で思慮深い良い娘だし自由奔放なら「アタシの方が凄い」と思うし、ブロディ先生アタシの個性や長所をちっとも認めてくれないのが悔しいし(笑)・・・それで前述した「背伸びした十代のヌード」シーンに至るわけです。そんならアタシがジェニーに代わって先生の不倫相手寝取ってやろうかってね。でも結局テディ先生はミス・ブロディのことが頭から離れず人物を描くと彼女の肌の色をどうしても再現しようとしたくなっちゃうので絵画が皆おんなじになっちゃうんだと。(笑)映画でのマギー・スミスの肌色はホント白く透き通っているし、おまけにテディ先生役のロバート・スティーブンスは実生活じゃマギー・スミスの旦那だったりするもんでこの辺のエピソードはかなりエグイです。

 このごちゃごちゃしたブロディ先生の欲求不満の元はやはり「初恋の痛手」によるものなのか、通常の授業をすっ飛ばしてイタリア旅行のスライドを生徒たちに見せていてもムッソリーニによるファシスト党の集会に感動したり、そのくせフィレンツェの写真を語りながら壮年の英雄と14歳の美少女の恋の話に移っていっちゃう。何故ブロディ先生の話はどんどん支離滅裂になっていくのかが本当に謎なのですが、どうも第一次大戦時に一番多感な時期を過ごしていた彼女が戦地へと赴く男性の一人に熱烈な片思いをしていたのは間違いなさそう。思春期に憧れた激しい恋愛衝動は同僚教師との不倫やアバンチュールじゃ到底満たされることがないという幻滅と怒りがどんどん人騒がせな方向へと向かい、ついにはブロディ組の仲間の中でも子供っぽく吃音が治らない孤児(だけど親の遺産はたっぷり、兄はスペイン戦争に既に赴いている)の少女メアリーに独立戦争で物騒な最中のスペインへ行けっ、とけしかけることになるのでした。サンディはそんなことやめさせたいのに結局ミス・ブロディが怖いし、どう説得したらよいのか分からない。そして当然のごとくスペインへと家出したメアリは死んじゃうのだ。

 

 オンナの「虚栄心」が洒落にならない「毒」になる時

 ・・・てなわけで最後サンディがどう「落とし前」をつけるのか観てください。ブロディ先生のような人物に向かってこれだけ云うのは日本の女の子じゃというか、いい年した常識的なオバサンでも無理かも、ていうくらいに彼女は頑張ります。だって校長をはじめとする老練なオールドミス達(ラクダみたいな体育教師、リスみたいに終始無言の事務の老嬢、八つ墓村に出てくるような双子の婆さん的家庭科先生・・・皆キャラが濃過ぎる(笑)・・・)にとってもブロディ先生は手ごわかったもんね。校長先生(ジェーン・カー)は終始冷静でブロディ先生に欲求不満のババア呼ばわりされてもキレることなく慎重で権謀術に長けている。でもオンナの虚栄心の暴走というのは中々止められないの、なかにはそんな女性を「魅力的な悪女」として崇める男どもも一杯いるわけだし。そんな雰囲気の中じゃオンナは自分の身体の中に感じる危険信号を常に疑わなきゃいけないから判断が鈍って最悪の結果を招くことになるのさ。

 ま、ごめんね青春! DVD-BOXの錦戸先生のようなケースじゃなくても青春をこじらせた熱血教師が自覚無しに学校に居座ると生徒がエライ迷惑する、という映画。日曜9時にキッタない男子の生理感覚のドラマなんぞリラックスできんわ、という十代少年ならば多少の知的興奮も合わせて楽しめる女の子映画も良いのではないでしょうか。