振られてもしょうがない女④「若い人」の吉永小百合

若い人 [DVD]

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本来なら「暗いお話」になるはずだった?

 「若い人」は戦前の1937年に出版され、当時すぐに映画化になったというほどのベストセラーでこの日活版は4度目かの映画化。吉永小百合という女優さんはあまりに子役時代から人気で美貌が注目されていたせいか、父親がすごく厳しくて彼女自身が結婚するときも、原作者の石坂洋二郎が結婚に反対する吉永の父親説得に尽力したんだとか。それぐらい吉永小百合は石坂洋二郎のお気に入りだったのか、この「若い人」では石坂自身が吉永小百合という女優を用いて戦前発表した自作の原作を再度リメイクしようと試みたんじゃないかと勘繰るぐらい物語はよくできていて、十分現代の観客の鑑賞に堪えることでしょう。ちなみに映像化にあたってはどの作品でも主人公の江波恵子(吉永小百合)が振られるという結末になっていますが、原作では間崎と恵子の方が結ばれて、振られた橋本スミは社会主義活動に走ったあげく警察の検挙されるという終わり方になっています。よく資料に「若い人は明るい小説なのに思想的な部分で右翼に目を付けられることがあった」とのっているんですが本来なら右翼に目を付けられるような過激で陰惨な内容も含まれているのに、あっけらかんと描いているため多くの読者の誤解を生んだというのがこの日活版映画だとなんとなく解かるという内容になっています。

本当はこわーい「友達母娘

 ストーリーは一見他愛もないもので、ミッション系の女子高に勤めるハンサムな数学教師の間崎(石原裕次郎)に入れあげて何かとちょっかいを出す江波恵子(吉永小百合)の巻き起こす騒動と顛末を描くというもの。間崎は恵子のことをそんなに異性として意識していたつもりもなかったのですが、同僚教師の橋本スミ(浅岡ルリ子)に「江波恵子はあなたのことを本気で好きで求めていると思う、中途半端に彼女を甘やかすらいなら、きちんとお嫁さんにもらってしまいなさい」と助言されて恵子の書いた作文を押し付けられてしまいます。間崎としてはスミの方にアタックしていたつもりなので、「なんで俺が橋本先生にそんなこといわれなきゃならんのさ」だし、そうかといって恵子の作文の内容を読むと「こりゃ彼女の内面はとんでもなく深刻だぞ」となって、急に恵子のことを生徒ではなく女性として意識し始めてしまう・・・。恵子には父親にあたる人はおらず、恵子の母ハツ(三浦充子)は船員相手の料亭をやっていて、彼女いわゆる私生児ってやつでした。私生児といっても家は裕福ですから、恵子は母と一緒に間崎の家に押しかけてきたりして紳士靴までプレゼントする始末。恵子とハツの母娘はとても仲が良くてまるで姉妹か友達関係かのようだし、ハツは恵子に一般的な母親以上に深い愛情で娘のことを考えているとしか間崎にはみえません。なんたってハツは「恵子のことはどうなるか分かりませんわ、アタシのような女になるか、ならないか・・・」ととっても娘に理解ある発言をするのですから。このセリフが終盤近く、ハツの料亭でのエピソードで不気味な意味を帯びてきます。そのへんは私が説明するより、映画を観てもらった方がよいと思いますが、恵子とハツは最近の精神医学や心理学でもよく話題になる不幸にもお互いがガッチリ癒着した母娘関係の典型パターンでして、母の呪縛に苦しむ娘とか、娘の幸せに嫉妬する母とかのトピックに興味ある人にこそお勧めといえましょう。

 本当は映画のラストに恵子が自殺を図るという結末だからね、コレ

 ・・・・てことです。間崎は恵子とハツの母娘関係の内実を知っちゃった段階で「こりゃ自分の出る幕はどこにもないや」ということで、恵子にはっきり「自分が好きなのは橋本先生で、君の気持には答えらないし君の境遇も救ってあげられそうにない」と告げてしまいます。恵子の方も間崎の気持はとっくに理解はできていたのですが、やっぱり本人に言われるとつらい。間崎が恵子の家から学校に戻るという段階で、恵子の「先生を学校まで送るわ、ついでに先生の剃刀も私が持ってっていい?」というセリフがあるので、恵子が剃刀で手首を切るだろうなあって解かる人にはわかるでしょ、っで映画は終わるのだっ。そもそもセックスに対して本当に早熟な十代の女の子なんてのは存在しないし、居ても娘時代のハツのように男にとって都合の良い不幸なケースか、裏の目的があるケースがほとんど。男としちゃあくまでも「男としての己のシアワセ」の為に性愛はあるに決まってんじゃんなので、年下の早熟だけど清純な娘に誘惑されて振り回されたあげく、捨てられるなどと想定している世の男子の方は殆どおられないと思います。でも私めの知り合いではこの手の被害にあった男子が2、3人ほどいるのですよね。時代劇を教わっていたシナリオの師匠は爺さんになっても「俺は30近くの歳になって、セーラー服に騙された。今まで付き合ったオンナのなかで一番ひどい目にあわされたのはセーラー服」とずっと言っとりました・・・ホントは自慢だったんじゃね?とも考えられなくもないのですが、90年代にヒットした「高校教師」なんて観ると早熟な美少女に騙されたと感じる内気な男子のトラウマってそんな激しいのかぁ・・・て凄かったしね。あのドラマ女子校出身者ほど皆大嫌いだったし、何故とことん卑怯なキャラばかり出るのかほとんど謎だったもんです。「若い人」のような先人の教え(小説&映画)が参考になると「高校教師」の製作サイドは知らなかったのか、もしくは「石坂洋二郎を参考にしなさいよ」といった助言を無視して突っ走ったらああなっちゃったのかは不明ですが、石坂洋二郎が自身の文学では巧みに封印した私小説的な草食男子の怨念が90年代のTVドラマで爆発したみたいです。

光る海 [DVD]

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 こっちの映画はテレビで途中までしか観てないのですが、「若い人」と同様に母娘関係に苦しんで性愛のへの興味が多少こじれてしまった女子大生を小百合様が演っております。小百合様はやたらセックスの話題ばかりして珍しく浜田光夫に振られるという黒服のメガネっ娘なのですが、こっちの方がむしろ戦後の明るい風俗を描いていて安心して観られそうだなあと。小百合ストたちの人気もかなり高そうなのですが、ついにDVD化されたようでめでたいことです。