いろいろとお説教がキツい人達 2「レベッカ」について

 

映画製作は1940年、主人公のヒロインの名前は・・・

レベッカとは言いません、それどころか「私」で名前で呼ばれる台詞も一切なし。主演のジョーン・フォンティーンはさすがに1935年に映画デビューですが、初主演作なので「役名のない主役を張った女優」としてギネス選定されててもおかしくないんでは。でもそれ以上に前妻レベッカを失ったトラウマに苦しむマキシム・ド・ウィンター(ローレンス・オリビエ)の姿に私は驚きました・・・オリビエ、若造過ぎないかっ?、ちなみにジョーン・フォンティーンって風と共に去りぬ [Blu-ray]のオリヴィア・デ・ハヴィタントの妹てのも有名です。少し話は逸れますが、私自身ここ数ヶ月前からモンゴメリー・クリフトってタイロン・パワーのそっくりさんにしか見えない」という悩みに取り憑かれておりまして、前世紀のハリウッドスキャンダル数々について頭がついグラグラしがちになっております。2021年の初めにようやく渋谷の映画館で観たんですが、場内はシニア男性でいっぱい。特にシニア層だけが御用達にしている名画座でもないのでヒッチコック作品でもいかに「レベッカ」のファンが多いかということでしょう。

 

 

亡くなった女主人レベッカを崇拝する女中頭

というのが、映画のあらすじを語る時の掴みであり、罠でもありますから注目して下さいね。以前ここのブログでも取り上げられていたドキュメンタリーのセルロイド・クローゼット [DVD]でもヒロインにプレッシャーをかけ続けるダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)がレベッカの部屋のクローゼットにしまわれたの洗練された美しい寝間着や下着類を未だ小娘みたいなジョーン・フォンティーンに見せつける、という名シーンを取り上げておりました。この映画に登場する肖像画や衣装、小道具に至るまでもの凄くゴージャスなのが、却ってThriller/怪奇を誘います・・・でもそれがホントに「セルロイド・クローゼット」に登場するレズビアンの女性の言うとおり女性の同性愛の発露なのかどうかは観てのお楽しみです。私としては映像の刺激としては確かに同性愛描写チックなものは在るやもしれませんが、映画の物語にはレズビアン要素はほぼありません、と申し上げておきます。

ヒロイン「私」に足りないもの「レベッカ」に足りないもの

映画の中ではレベッカは死去するのに「私」の方は生き残るのが「レベッカ」の中における最大のポイントとも言えるので、コレはネタバレでも指摘しないといけません。あとパラサイト 半地下の家族(字幕版)に登場する社長夫人(チョ・ヨジョン)や劇場版 ダウントン・アビー [Blu-ray]の貴族一家の長女(ミシェル・ドッカリー)は20世紀や21世紀に生きる女性たちなので当然20世紀初頭の英国が舞台の「レベッカ」の私や死んだレベッカには無い能力や強い自信を持っています。英国の社会学の研究では19世紀の英国では上流階級の男女がしばしば彼らの召使いに管理される傾向があったという有名な研究があるくらいで、レベッカや私のような大金持ちの妻が家事能力や美術芸術の才能があっても、召使いに日常を徹底的に管理されると自信喪失に陥ったり、召使いの方が長年使えてきた女主人と自己同一化したあげくに女主人を意図せずに殺してしまい、おかげで窮地に陥りヒステリーを起こすといった事があったかもしれないね。マキシムにとっては前妻のレベッカよりも「私」の方が彼と一緒になって遊んだり夫婦で田舎暮らしのバカンスを楽しんだりしてくれた事で少しだけ勇気をもらった。「私」がレベッカより強い女性であった点はそこだけだったりします。レベッカは映画でも徹底的に不在であるが故に残酷なまでに悲運の女性。でも犯罪被害者の実像に経緯を払う表現としては極めて真っ当だとも思います。

おそらく映画史の中でも最強レベル、稀代の悪女が登場する映画

21世紀になってもコレは当分変わらなさそう。最近ではリメイク版のサスペリア [Blu-ray]に出てくる女性達ももの凄かったですが、彼女らは自分達の行動は男性にとっても良いことシアワセな事と堅く信じているカルト狂信者の悪女タイプなので、「レベッカ」に登場する悪女とは違います。原作者のレベッカデュ・モーリアはさすがに女流作家なので本当に性悪な女はどういうものか小説の中で描き尽くしていたんだと確信してます、原作小説読んでないけど。それをプロデューサーのセルズニックがヒッチコックを英国から招いて映画にしました。女性の悪徳の中で最も危険なのは性欲か?物欲か?権力欲か?自己中心的性格?という観点から考えていくと、この手が在ったのかスゲえ・・・と映画観た後に唸りました。もっとも私と一緒に劇場で鑑賞していたシニア男性達に私のこの感想を告げたら怒鳴られて説教されるとは思います。

日本では数年来ミュージカル人気が定着してきました。

演劇全体の人気も高まってはきつつありますが、それもミュージカルの人気が引っ張ってきた部分があります。そのせいかどうなのか、世界初の舞台化を何故だか日本人たちが果敢に試みるという現象が起きています。なので「レベッカ」は名画としてTV等で放送するだけでなくミュージカルとしてたびたび公演しています。私は今回映画鑑賞してみて、確かにミュージカルに向いてるよね「レベッカ」は。その方がきっとサスペンスより主人公男女の機微は分かり安いかも、て印象を強く持ちました。ミュージカルは取っつきにくくて苦手だけどさすがに気の弱い若い人には「レベッカ」薦めずライなあぁ・・とお感じなるシニア層のヒッチコックのファンの皆様はミュージカル版の「レベッカ」もご覧になってみては。何しろ「レベッカ」という物語は好奇心の強い小中学生のお嬢ちゃん方からすると「ダンヴァース夫人よりも登場する夫マキシムをはじめとする若い男性達の大半の方が気持ち悪い気がする」という感想を持つやもしれませんから。21世紀を生き伸びるキッズには年齢の発達に応じて映画も含めて繰り替えし鑑賞させたいかなって。こうなったら私はもう少し暇とお金ができた段階で「レベッカ」のミュージカルも観てみたいです。(ガチでいろいろチェックしたいかも)

それぐらいはコワい映画でした「レベッカ」は。