しょくぎょうふじん ⑦ 「ジェネラルルージュの凱旋」の竹内結子

 

ジェネラル・ルージュの凱旋 [DVD]

ジェネラル・ルージュの凱旋 [DVD]

 

 原作の田口、白鳥シリーズはどっちも男性です。

 それを映画化の際に心療内科医の田口役を田口公子(竹内結子)として女性に置き換えたのがこの映画。海棠尊の田口、白鳥シリーズでは他に「ケルベロスの肖像」が伊藤淳史仲村トオル主演で映画化されており伊藤淳史が田口役を務めています。映画化にあたり田口を女性に換えたのは中村義弘監督の強い希望だそうで、映画では田口が病院や医療関係者とソフトボールチームでピッチャーをやっているシーンが話のポイントになったりさえしているのですが、シリーズが続くにつれ原作小説の男性田口は戦車マニアになったりともう絶対に田口を女優にはやらせないとの原作者の意向が強くなったようで(笑)竹内結子の田口役はチーム・バチスタの栄光 [DVD]とこの「ジェネラル・ルージュ・・・」の二作でピリオドになりました。ジェネラルルージュこと速水晃一(堺雅人)がもう裏の主役じゃね?ぐらいの存在感があり、この役で堺雅人日本アカデミー賞助演男優賞を取った・・といおうかももう殆ど半沢直樹の予告編のような活躍ぶりです。今回この映画を取り上げた理由として一番の興味は主にどうして田口公平が田口公子に変更されたのか?に集中しているのですが。通常ミステリーにおいて探偵役の性別や年齢の設定は極めて重要とされ,、本来探偵役のキャラクターの性別を換えるなんてのはとんでもない愚行にあたると考えるのが本格的なミステリーファンの心得なんです。某有名推理作家の場合はあまりにも映像化にあたり探偵役の設定を勝手に変えるのに怒って映像化を断るようになったという話もあるくらい。で、映画を観ただけの私自身の印象としては「チーム・バチスタの栄光」で作家デビューした海棠尊氏が田口を「不定愁訴の外来を受け持っている」という設定にしたのが運の尽きだったね失敗したね気の毒にという事くらいでしょうかね。

白鳥&田口は「完全なるホームズ&ワトソン」ではない

 「ロジカルモンスター」の異名を持つ厚生労働省のキャリア官僚の白鳥圭輔(阿部寛)は医療過誤死に関するエキスパートとして病院やそこに勤務する田口たちに対しては圧倒的な権威であり恐ろしい切れ者としてシリーズでは活躍します。「チーム・バチスタ・・・」でもバチスタ手術をした医師や看護師達にハッタリをかましたり、わざと相手の怒りをあおったりするのが、初登場シーンとして強調されたりする。原作では白鳥がアクティブ(能動的)な捜査手法を得意とし、田口はパッシブ(受動的)な捜査手法を駆使して周囲や人々を観察していき犯人を追い詰める、というのがシリーズのパターンのようです。海棠尊は医師なので「外科」「内科」のような対象へのアプローチの仕方がまるっきり異なる人物を書き分け「探偵業を分業している」というコンビを明確に描いたのでした。これがホームズものになるとワトソンの方が「より外向的な性格で素直な見方をする人物」になるので、ワトソンの表面的な観察力は内にこもりがちなホームズの推理力にインスピレーションを与えるという役割に止まり、体裁としてはあくまでもホームズの活躍の記録係として登場するのです。なのでホームズ&ワトソンペアの個性の一部を取っ替え引っ替えしてアレンジし直して発展させたのが田口&白鳥ペアといって良いでしょう。それと田口と白鳥では病院の内部関係者と病院を監督指導する立場の官僚としての立場の違いがあるので事件調査に「ゴールする目標」が違います。映画「ジェネラルルージュ」では前作の事件をきっかけに病院のリスクマネンジメント委員会の委員長に田口公子(竹内結子)が就任したところから始まって速水(堺雅人)への疑惑と適切な処分について考えるのが彼女の仕事なのだ、というオチの構成なので、その辺も田口&白鳥の役割分担を観客にはっきり見せていくわけで原作を読んでいなくても分かりやすかったです。

探偵としての田口公子とは

 「ジェネラルルージュの凱旋」の田口公子は病院のリスクマネジメント委員会宛に来た匿名の告発状を受けて速水を独自に調査する羽目になり、医師にも関わらず血が苦手で救急病棟にも入っていけないが自分があ・・・と如何にもやる気なさそうな様子で病院の人々に話を聞いていきます。でも自分の外来を一緒にやっている藤原真琴(野際陽子)と病院内の人間関係をおしゃべりしながら速水の周囲を探っているのはなんだか楽しそう。彼女実は調査について決してやる気が無いわけではないんですね、やる気があるように周囲に悟られないようにかぎ廻っている。これがTVの二時間ドラマだと探偵役の女優が中年過ぎのおしゃべりな相方(もちろん女性)と一緒になって張り切って探偵やるもんだからすぐに調査対象の人々に警戒されるんですけど、田口は病院内の組織の一員ですから殊更渋々にやっているようにそして無能そうに見せないといけない。竹内結子の演技だとそんな感じが強く出る、こう言っちゃ何ですが男の役者より女性が演った方が「昼行灯」などともったいぶってするより展開にスピード感は出るかもしれないです。告発状を匿名で送りつけた人間も誰だか分かっていないしね。そのうちに例の白鳥(阿部寛)が自ら身体を張って無理矢理に入院しようとするし。病院内では速水と反目する大学病院の精神科助教授の沼田(高嶋政伸)や病院事務長の三船(尾見としのり)も登場するので徐々に問題が収斂していくのですが、そんな折病院の近所で鉄道の駅で大事故が発生、大量の救急患者が運ばれて来ることに・・・てなことで後は映画観てね。

チームバチスタの後、なぜだかハリウッドのTVシリーズに出演

 竹内結子は2010年にフラッシュフォワード コンパクト BOX [DVD]という米国のTVドラマシリーズに出演し、そのドラマ鳴り物入りで始まったのに見事ポシャって1シーズンで終了しちゃったのですが、もし人気が継続して竹内結子の出演も続いていたら今頃は彼女どうなってたのか解りません。どうしてオファーが廻ってきたのか?本気で海外進出狙ってたのか?(でもそれは絶対無いな)・・・とにかく謎でした。もちろん日本の竹内結子のファンには米国に進出しなくて幸運だったのは確かです。んでハリウッドが日本人の役者をオーディションする際には出演している映画&ドラマを徹底的に観ていくそうですから、竹内結子の出演している映画をハリウッド業界人は「バチスタ」を始めよく知っているということですよね。

 そしてどうでも良いことを付け加えると英国で例のベネディクト・カンバーバッチ様によるTVドラマシリーズSHERLOCK/シャーロック シーズン1 Vol.1(吹替版)シリーズの世界的ヒットを受けて米国版でも現代版シャーロック・ホームズをやろうということになり開始されたのがエレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY DVD-BOX Part 1【6枚組】でここでは相棒のワトソン役が女性でしかもアジア系女優のルーシー・リューが演じていましてこちらも5シーズンまで続いています。「バチスタ」映画版が影響を与えたとか穿って考える必要も無いのでしょうが、些細な事でもヒントにすることが何事においても必要だし今の日本にとってはどんなジャンルでも一番欠けている要素かもしれません。

原作と映画版の最大の違い

 それはもうおそらく映画はより「二時間ドラマ」っぽく原作はより「ラノベ」っぽいんでは、じゃなかと。(笑)ラノベはさすがに言い過ぎかもしれませんが原作の速水はかなりのモテ男で取り巻く女性陣のさや当てが結構あるのだそうですが、映画ではそこはバッサリ切っているので「ジェネラルルージュ」の命名の謂われのエピソードがより引き立つやもしれません。一緒に観ていた夫は「羽田美智子って俺と歳があまり変わんねーじゃないかっ」と最後ぼやいていたのがもの凄くうざかったのですが。バチスタの小説の読者もそうゆう事ばっか気にする人が多かろうとの判断で「意志を貫いてカッコいい速水」を巡っての恋のさや当てとか必要とされたのかもしれませんね。