法螺あぁぁーな女 ⑥ 「アイアムアヒーロー」の片瀬那奈他

 

イマ現在、日本映画におけるゾンビ映画の到達点のひとつ

 このDVDパッケージ観るかぎりは出演者の皆さんあまりゾンビには向いてない御顔立ちのようなんですが・・・有村架純ちゃんは頑張ってましたよ、〇ン〇。まあどう展開されるかは観てのお楽しみということですけど。怖い日本映画ホント苦手なのでゆっくり鑑賞しつつ、そしてとっととまとめて封印したいくらいですが、こういう映画が昨今ぽんぽん出てくるので困ります。ただし日本的な湿気を極力抑えたホラーではあります。後半に登場するアウトレットモールは韓国でロケをしたそうで、すげえなこんなセット作って外国のロケハン呼び込むのかあと感心してたら、実際に倒産したアウトレットモール跡だそうで、そっちの方にびっくり(笑)。日本じゃここまでダイナミックな廃墟は無さそうだしなあ、いかにも「ダサい施設」だからつぶれましたってトコしかないもんね。

二十一世紀になって新たな展開を始めたゾンビ映画ジャンル

 私が子供の頃の「ゾンビ物」と言えばジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」の超怖い映画・・・という以外の印象しかなくあくまでも一部の熱狂的ホラー映画ファンが観るものというイメージがずっとありました。大昔「ゾンビ完全版」の予告編だけ見せられて(確か新宿武蔵野館だったような気がする)困った経験があります。それが2002年にダニー・ボイル監督の「28日後」というわりと普通のドラマっぽい映画が登場し、様相が変わってきました。日本だとそれ以前から映画ではなく「バイオハザード」というゲームソフトでゾンビ物に対する興味というか執着があったものの、なんだか日本映画でゾンビって恥ずかしい・・・という気持ちが先に立ったのかジャパニーズホラーが世界で注目されてもゾンビ映画はなかなか登場しなかったのですが、気が付いたらこんな映画が出てきたわけです。ちょうどトウキョウソナタ [DVD]の公開された翌年の2009年から「アイアムアヒーロー」の原作漫画の連載がスタートし同年に公開された題材はゾンビとは全く関係ないのに感染列島 スタンダード・エディション [DVD]なんていう映画も登場し鳥インフルエンザの感染者が「鳥眼になってんのがなんかゾンビみたい」な表現が登場してきて、その頃からCG上手く使えば日本でもゾンビ物できるんじゃん?な雰囲気がだんだん出来上がってきた気がします。映画製作の内でも外でも準備が揃い始めたところで、うまい具合に韓国の物件が出てきたのだろうか(笑)・・・でも韓国は日本より寒冷な土地だったからラッキーでしたよ。なにせゾンビのルックスってば「湿気」に弱いイメージあるじゃないですかあ、映画の設定では「富士山近くの涼しい土地だとぞきゅん菌は感染が広がらない」という噂が広まって主人公たちは富士山へ行くのですけれどね。

前半部分の「改定」が思わぬテンポを生んだかも

 さて映画の冒頭いわゆるZQN(ゾキュン)が大発生するまでのくだりが意外に長いことに原作漫画を知らない観客は戸惑うかもしれませんがそもそも原作ではコミックス一巻かけてゾキュン発生までを描いているのでこれでもかなりぶった切っているそうでうです。脚色にあたって(「逃げ恥」でも注目の野木亜希子氏が担当)かつては漫画雑誌の新人賞を取ったものの漫画家のアシスタントとして日々を消耗していく30代後半の主人公(大泉洋)の恋人であるてっこ(片瀬那奈)が同棲中に大げんかして罵倒しまくるというシーンで一巻目のドラマを凝縮させるという「省略」を施しているのがミソ。喧嘩別れしたてっこの電話に異変を感じて同棲しているアパートに戻ると、今まさに感染したてっこがゾキュン化していくのを玄関の新聞受けの窓から覗くというかなり古典的ですが怖ーいシーンが強烈なインパクトを与えます。もう大泉洋はそっから恐怖という衝動以外の感情に囚われる余裕も一切なくなり、ゾキュンどもが追いかけてくる街を駆け回り、女子高生の比呂美(有村架純)とともに富士山麓まで一直線に進んでいきます。映画観た後「やっぱTV局が絡んでいない映画だから思いっきりやれたのだ」という賛辞を目にしましたが、逃亡の為タクシーに乗り込み車内のTVをチェックして「トウキョウCHにしてください!」というエピソードが個人的におかしかったです。なんでも「そこのCHが通常放送に固執している間は日本は平和なのだ」という主人公独特の価値基準があり、そこのCHのアニメが中断してニュースに切り替わる際に事態の深刻さに軽く失望するというヤツでした。「アイアムアヒーロー」が地上波で放送されるのは難しいでしょうがもし可能ならばぜひともテレ東でお願いしたいものです。また「この世界の片隅の」と同様長尺をコントロールするのに主人公の動線に従って構成されていることにも注目しましょう。

告白る(コクル)男の矜持とはっ・・・

 んでもって富士山にあるアウトレットモールへ比呂美とともに辿り着き、そこで後半の展開に移っていくのです。二人はモールに立てこもる避難民の集団メンバーの藪(長澤まさみ)と知り合い仲良くなっていきますがあ、そこは食料は徐々に無くなりつつあり、ゾキュンがすぐそこまで追ってきているという状態。大泉洋は漫画の取材のためにライフルの資格を取得していて、後生大事に持ってきたのですが逃げ回るばかりで全く使用していないとか、ありがちですが観客の興味を効果的に引っ張ってくれます。ただし「ヒーロー、ヒーローになる時ぃ♪あ、あ、それは今~♪」なカンジで全篇アクションとバイオレンス描写で突っ走るクライマックスを迎えるにも関わらず凡てが終わった後にスカッとしたマッチョ感がほとんど無いのですよ、なんか寂しい。ゾンビ映画の作り手はそもそもどこかヒューマニズムを表現したいものだ、というのがゾンビ物の評論では常に云われていますし原作でもその辺を狙っているのなら問題はないのですけど。要因としては肝心のヒーローに覚醒した大泉洋よりも一緒に戦う、何かを待っているかのように生き延びる徳井優や予想に反して徹底的にバカ一直線で最後を迎える岡田義徳といった面々にむしろ「普通の人間がヒーローになる瞬間」を感じてしまうのが大きいということかもしれませんが。更に言うと片瀬那奈から有村架純長澤まさみとまるでヒロインがリレーしていくような展開を前半の片瀬那奈の印象が強過ぎるために、映画版ではより思いっきり「暴露」しちゃってるからではないかと(笑)・・・少し思っちゃったよゴメン。野木亜希子脚本だと他にそれが図書館戦争 プレミアムBOX [Blu-ray]岡田准一であろうと重版出来! Blu-ray BOX荒川良々でも滝藤賢一にしても、(あと忘れてましたが「逃げ恥」の星野源もねっ)各々のドラマが「〇〇への想いをいかに告白る」かについての葛藤を描くのが結局一番の見どころになっちゃうらしいです。だから映画ラストには大泉洋何かを告白る必要が生じるのでお楽しみにして下さい。ただし若干「よごれたひでお」感はあるやもしれません。