BL版 ドキュメント野郎!! ③ 「シュガーマン」

 

 地味に「凄いお話」、渋く「危険(ヤバい)な男」

 よくよく考えたら成し遂げたことは凄いかもしれないのに、地味・・・。という英雄(ヒーロー)の映画と言えばいいのでしょうか。ドキュメンタリー映画として2012年のオスカーはぶっちぎりで作品賞は取ったものの、観に行った先の劇場では途中から居眠りしていたサブカル好きそうな兄ちゃんがいたし。ドキュメンタリー好きの野郎どもにはあまり語り継がれていない映画。なんつうか、主役たるこのロドリゲスというお方、どっか女性的な部分があるんじゃないかな。もしも明石屋さんまのようなヒトがいて「SUGAR MOM♡」とかあだ名つけたら人気が出るとか・・・そんなオギママみたいなブレイクの仕方があるわけがないですからね、USって。だから突っ込みどころがないの。決して我が強くない人間ではないし、むしろ強烈頑固な一面が音楽にも日常スタイルにも存在するのに皆それを忘れてしまうというのか、彼の音楽に合わせて起こった現象が一見唐突で繋がりがないので、「そりゃあ大変でしたね、やりましたね長年の苦労が少しは報われましたね」としか言いようがない。しかもシュガーマンという男はそんな賛辞にも「まあね」ぐらいで淡々と受け止める・・・その姿がどっか中性的に映るんですよ。ちなみ私は映画の途中でようやく登場した彼を観て何故か「コイサンマン」の二カウさんを思い出してしまった。(笑)・・・あと言いにくいんですが「アクト・オブ・キリング」のアンワル爺さんにも共通するものを感じる。そりゃ、野心だの何だの脂っ毛が抜けてジジイになった処で初めてドキュメントのネタになるからだろうがっ、と突っ込まれればそれまでの話なんですが。ちなみドキュメント野郎たるに謎のシュガーマン=ロドリゲスを追いかけて映画にしたのはスウェーデンの新進監督だそうですが彼の方はどうしたわけだか三十代の若さで自死されたそうです。

当時の若者は皆、自分の過去の「青春」を静かに熱く語るけどぉ

 へっ、へぇぇぇ・・・そうなんだ、で感想が終わっちまうという、ごめんよ、アパルトヘイトのこと知らないからさあ私ら。1970年代の南アフリカアパルトヘイトでは黒人だけでなく白人の若者たちもまた人知れず閉塞感で暗かったんだそうだ。どうも他の先進国の最新文化が入ってくるのを忌避したり、思想の統制が厳しかったみたいだね。だから当時の若者(でもインタビューに答える当事者たちは皆かなり成功した風の50代以降のおっさん達なもんで)は熱をこめてロドリゲスの音楽、それもシュガーマン」のアルバムの一、二枚っきりについて語る。情報が遠い・・・というのは日本の洋楽でも同様じゃないかと思ったりもしたけど、70年代の日本の洋楽ロックの全盛期、あっちじゃ一発屋でも何でも日本じゃ大盛り上がりでフレンドリーに接してたのと比べりゃ確かにひそやかで地味なのかなあ。70年代半ばから80年代にかけてっつうと日本だとクイーンやらキッスやらディスコで一番華やかだったもんね。で、南アフリカで流行ってた「シュガーマン」は麻薬の売人を指す言葉、それを皆理解してたかどうかも不明だったけど、南アフリカの中間層の若者には熱狂的に受け入れられた。もっともすべて海賊版で紹介されてたのでロドリゲス本人には著作権料など一切入らなかったけど。監督の方はそれに強く憤りを感じていたみたいで、当時のロドリゲスのプロデューサーにも随分詰め寄っていたのが印象的だったんですけど、私自身の印象では当時の音楽著作権等の事情を考えるとなあぁ・・・インタビューに答えていたプロデューサーはそれこそ「こっちは別にロドリゲスで一人だけボロ儲けたという意識は無い」って顔にはっきり書いてあったような気がしましたしね。(当時の海賊版の利益が海を越えてUSまで入ってきたようにもあんまり思えないし)

そしてついに「ロドリゲス降臨」

 南アフリカではロドリゲスは既に死去といった噂が広がっており、当時一緒にアルバムを製作したスタッフさえも彼の消息を知らなかったのですが、後半に至ってあっさり判明します。ロドリゲスはいったん音楽を止め結婚して三人の娘を得たものの結局離婚し、土木作業員として働きながら娘たちを育て上げておりました。土木作業員時代のエピソードとして最も凄いのは「どんな現場でも出勤はスーツ姿で決めていた」というやつで、しかも写真照明付き、ほぼ「ステージ衣装のごときスーツ姿」が工事現場の背景とともに映し出されている写真には皆さんノックアウトされること間違いなしです(笑)でもロドリゲス氏という人物はどこまでも控えめな堅気の爺さんでしかないのですよインタビューで語っても語っても出てくる素顔はそればかり。南アフリカでの大ブレイクの話を聞いても「知らんかった」だし、南アフリカのロドリゲスファンが彼の消息を知って熱狂するや、いそいそと南アフリカでライブを行い、フレンドリーな熟練ミュージシャンとして楽しそうにパフォーマンスしちゃう。・・・で現在(映画公開後)ごく自然にUSでも表舞台に立ち、淡々とライブ活動に励んでいるそうです。娘たちも独立し、彼女達の援助ができればそれで良いらしいので(しかし娘たちは土木作業員時代の給料で大学まで行かせたっぽいぞ)ゆうゆう自適で音楽人生を生きているようです。


Oscar Winner Sugar Man - Rodriguez - LIVE

 

つうことで実際のプレイをご覧ください、でおしまい。