緑の女 ① 「戦争と平和」のオードリー・ヘプバーン

 オードリー初めてのカラー映画

 なんで「緑の女」なんてカテゴリーを作ったのかというと映画の色彩について主に語ろうと思ったからなんですけど、映画技法において最初に色彩を付けようとなった当初に最も発色が良かった色が緑と赤だったんだそう。そんでもってからカラー映画の中で女優の肌をきれいに魅せるために主に多用されたのがどうも「緑色」だったみたいなのさ。初期のカラー映画大作で有名なのがお馴染み風と共に去りぬ [Blu-ray]なんだけどそこでのヴィヴィアン・リーはここぞという時に着る印象的なドレスが何故か緑色、緑のベルベットカーテンをそのままドレスに仕立ててレット・バトラーに逢いに行ったりしてたのを覚えている方も多いのでは? 「戦争と平和」はオードリーがハリウッドデビューしてから3年後の1956年に公開された初のカラー作品、プロデュースはイタリア人のコンビの所為か衣装がすごい凝っているの。上映時間も長いけど、ヒロインのナターシャ(オードリー)が物語の変遷ごとにイメージカラーが変化していくのも見どころなのでホントに衣装見るだけでも飽きません。のちにフェリーニ作品で有名になるアニタ・エクバーグもグラマー体系があの時代のドレスによく合うのかチョイ役扱いにも関わらずとても印象に残ります、つーか出てくる女優さんたち皆おキレイなのが目の保養になるの。断然ソ連版の「戦争と平和」を支持する派も多いそうなんですが、少なくとも美人の数ではハリウッド版の方が勝るわな。



 トルストイ原作をソ連版は全408分で映画化、ハリウッド版はたったの208分

 とはいえソ連版でもハリウッド版でも主人公格の3人(ナターシャ=オードリー・ヘプバーン、ピエール=ヘンリー・フォンダアンドレイ=メル・ファーラー)を中心にして脚色されていて長大な原作を真に忠実に再現しているとは言い切れないんだそう。一時映画界では世界の十代小説にあたる「戦争と平和」を映画化することが悲願だった時期もあるんだそうな。ハリウッド版「戦争と平和」は原作に忠実でない度が相当高いんだそうですが、ソ連版の主演・監督を務めたセルゲーイさんハリウッド版には敬意を示していたそうだ。ただそれにしても「王道のヒーローもの+少女マンガ」みたいな内容なので208分あってもスゲー判りやすいです。昔淀川センセー解説の「日曜洋画劇場」では二週かけてやってたのを一生懸命観た記憶があるのさ、ホントはイマドキの若い子にもこうゆう「名作という名の実はリア充な青春恋愛物語」を吹き替えで見せてあげたら喜ぶと思うんだけどねぇ。映画の最初はまず一番のピエールが貴族の私生児だったんだけど、お父さんが死去後に後継者として莫大な領地を相続することになるや急に美女エレーナ(アニタ・エクバーグ)にモテだしうっかり結婚するところ、そしてピエールの親友で軍人のアンドレイがナポレオンとの戦争に従軍し、その戦闘の間に奥さんが産後のひだちが悪くて死んでしまうという苦難のお話、そしてまだほんの少女なのでピエールに片思いしていても気が付いてもらえないナターシャの事情と、やたら駆け足で描きます。もうこの辺で原作はこんな単純と違うわい! やっぱハリウッドってチャチぃとお感じなるヒトはエライね。私は長大な原作なんぞ読んでないおバカなので「出だしの状況の説明はこんなもんで」全然かまわないっすよ。冒頭しばらくはオードリーの衣装はすべて黄色のドレスで通すのが印象的でまるで彼女のイメージカラーのようです。そうして結婚が決まったピエールに「いいわね、アタシも大人になったらあんな風(エレーナ)みたいになりたいわ」とちょっとうっすい胸を張る。二十代半ばのオードリーは13歳にはさすが見えないですが若々しい肌に黄色がよく映えるのさ。次にピエールに紹介されたアンドレイが気になっているところへ社交界デビューが決まり舞踏会に出かける時は純白のドレスでつーシーンがオードリーとしては一番の芝居のしどころでしょう。ここでは彼女お得意の少女マンガ的演技が炸裂、昔の少女雑誌「それいゆ」の表紙みたいな美少女っぷりです。今思うと50年代から70年ぐらいまでの超大作って皆大河小説を映画化したものが多く、あんまり時間がかけられない所為なのか登場人物のモノローグがいきなり唐突に登場するシーンがよく観られました・・・「戦争と平和」の舞踏会シーンもその典型。こういう洋画に憧れて当時日本の漫画家や劇画原作者たちが現在の漫画の定型を作り上げたんじゃないかと思うくらいです。現代の映画だと登場人物のモノローグを多用するというのは映画のスタイルを決定付けるということに等しいので、もうちょっと慎重にやりますけどね。

 主役3人の「イメージカラー」が演出のキモ

 まず軍人で上級士官のアンドレイのイメージカラーは「赤」、ロシア軍は兵隊は緑で貴族階級の士官たちはベルばらのオスカルみたいな赤い上着を着てます。フランス革命時のオスカルだけどカッコいいという理由でナポレオン時代の軍服を着せたんだそうだ、この映画から来てるのかも。そういや舞踏会用の白の軍服やナターシャを紹介された時の服装もまんまベルばらのオスカルだわこのヒト。でもオスカルと違って赤い軍服まとった途端、ヘンなスイッチが入るのか「オトコとしての闘い命!」になっちゃう。軍服着るたびに彼は疲労困憊するのだけど、ナターシャに裏切られてからはより一層戦争にのめり込んでいく姿がイタイのですぐにはベルばら思い出せないけどさ。で、次にピエールなんだけど、この人超裕福な伯爵なのにいっつも同じようなグレーのスーツ、戦場にさえグレーのスーツで出かけちゃう。レット・バトラーの「どんな非常時でもタキシード」みたいなのもヘンなのって思ったけどそれ以上だわ、これも劇画タッチのアニメ主人公とノリが変わんない。ナターシャだけが、少女時代からの黄色のドレス⇒社交界デビューの純白⇒惑いの黒、茶色のドレス⇒深緑から透明感のある緑の外出着⇒そしてちょっと緑が勝ったグレーの質素なドレスに変わっていきます。ナターシャは全編通して「彼女はいずれもっと考えが深い女性になっていくだろう」と語られていて、心境の変化を衣装の色で表現するのが重要なんですね。で、結局ピエールの色に染まっていくつーことになります。面白いのはロシアの大地は「緑」で緑というのは自然の色過ぎてスカーレットのように「肌の色を際立たせる」ようなポイントカラーにはなり得ないということらしい。でもナターシャの心がリセットされてより自然に戻ることを表現するために緑の衣装というのが割合効果的に使われておりました。