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やはり「ノンケ」度の強い人間にとっちゃ、ただもやもやして終わったような・・・
とにかくたっくさんの映画シーンが抜粋されて出てくるドキュメンタリーです。アメリカでベストセラーになった「セルロイド・クローゼット」の映画化で著者のヴィト・ルッソは映画完成前の90年に既に亡くなっています。「クローゼット」という単語が既に個人の性的指向や性的アイデンティティーを隠す(クローゼット内に仕舞い込む)か表に出す(カミングアウトする)という暗喩になっていてセルロイドは映画フィルムという意味。そんでもってハリウッド映画におけるいわゆるLGBT指向が如何にノンケの観客にははっきりと分からない形で表現されているかを紹介した作品、ヴィト・ルッソの著書で挙げられた映画で構成されている為90年代映画に関しては一部を除いて映画のエピローグとして簡単に紹介されているだけのモノがほとんどです。なので私自身もこの映画にはクロゼット族っぽいキャラや表現あったっけ?もしくは逆にできればあの映画も挙げて欲しかったんだけどという感想があるのだよ。例えば巨匠ニコラス・レイ先生の「大砂塵」や理由なき反抗 [Blu-ray]が取り上げられているのはまあいいとして孤独な場所で [DVD]などとゆうハンフリー・ボガード主演でなければ大抵の人間にスルーされそうなマイナー&ハイテンション映画のどこに「クローゼット内に隠されたLGBT」が存在するのかが私には謎・・・あと観ていないので何とも言えないんだけど「失われた週末」の主人公って本当はゲイなのにそれを周囲にカミングアウトできない故にアルコール依存症になっているという解釈がされているとかね。ヴィト・ルッソさん自身は後半生はHIVと闘って運動していた人で当時HIVと言えば「麻薬やってるか同性愛者」が罹る病と言われていましたが、それをクローゼット族的に解釈すると「自分の性的アイデンティティーに悩みがちな同性愛者は結構何かに依存しがち」ということになるのかぁ? ・・・まあその辺は時代性もあるので80年代の社会の雰囲気からすれば「有りの意見」ではあるのですがね、でもノンケの人間にとっても「強い嗜癖」や「依存」に走る理由がいっぱいあるぞぉ、人生には。
闘い方はひとつじゃないのさ、その一
でも私自身が一番興味深かったのは結局ゲイの大作家先生お二人のスタンスの違いだったかもしれません。特に「セルロイド・・・」のエピソードでもメインのベン・ハー 製作50周年記念リマスター版(2枚組)(初回生産限定スペシャル・パッケージ) [Blu-ray](1959年製作)でのベン・ハー(チャールストン・ヘストン)の敵役のメッサーラ(スティーブン・ボイド)をベン・ハーに片思いのゲイっていう設定にしたゴア・ヴィダル氏のインタビューはしてやったり感がすごかったよ。具体的にシーンで本人の解説が入りますから、ごく一般的なゲイの物の観方というのがボンクラのノンケ人間にも判るようになっています。ヴィダル先生ウィリアム・ワイラー監督にもゲイ演出について熱心にプッシュしましたが、当のワイラー監督は「ちょっとそういうの止めてよぉ、作るのドッキドキの大作映画なのにぃ」の日和見な態度だったので、しょうがなくてメッサーラ役のスティーブン・ボイドにだけはゲイ設定で演じるように指示したんだとか。でも製作当時はともかく現代ではあまりにも地味すぎて却って淫靡な表現なんですけどね。ベン・ハー以後、続いて量産された大作ローマ映画には何故だかこの手の隠されたゲイ表現がというのが流行りましてローマ帝国の滅亡 [Blu-ray]やスパルタカス [Blu-ray]にも引き継がれました。トニー・カーティスは「スパルタカス」の出演の際、ホモセクシャルを思わせるシーンを撮ったんだけど、カットされたってインタビューで言っています。まあこれらの取り組みは「ゲイ表現」について当時ノンケの映画製作者たちが興味持ったというより、「セックス=権力を誇示すること」という側面の演出にはよりキャッチーな手だと考えたみたいですけど。しかしヴィダル先生の果敢なチャレンジはかなり波及効果が有りすぎて、それ以前から干され気味だった出版の世界だけではなく、ハリウッドで副業することに関しても、多々な妨害に見舞われる結果にもなっちゃったそうですが。それでもヴィダル先生は闘い続けチャールストン・ヘストンの横やりで失われた「ベン・ハー」での脚本のクレジットを取り戻す為に頑張ったんだそうだ、ガッツだね。ついでにヴィダル先生の小説は難解過ぎて日本人読者には殆ど知られていないそうで、ほぼ「ベン・ハー」がらみエピソードだけで有名になったようなもんだね。
闘い方はひとつじゃないのさ、その二
で、以前に「追憶」やった時に取り上げたアーサー・ローレンツ先生も当然「クローゼット・・・」にはご出演されております。こちらの方は自分の経験談を声高に語るというよりは大御所的なオブザーバーという感じ。でもよく考えてみたら旅情 [Blu-ray](原作戯曲を担当)だったりロープ [DVD] FRT-002(こっちは戯曲の脚色担当)でも表現は意外とローレンツ先生の方があからさまかもしれない、実を云うとこれははゲイとしての主張です、と穿って映画観たらだけどさ。ヒッチコックの「ロープ」なんてのは実際の男色家のカップルが起こした事件の映画化ということが既に知られているのでかなり確信犯的に堂々とゲイの主張をやってます。にも拘わらずローレンツ先生の場合は自分の性的アイデンティティーを公表する手段として劇作家なんて職業を選んだんじゃなくて、あくまでも自分のゲイとしての資質を武器にして作品に反映させた御仁だからさ。だからウエスト・サイド物語 [Blu-ray]とか本人のキャラ立ちよりも残っている作品でこの後も当分はローレンツ先生の名は残っていくことでしょう。ただ多くの米国人というのは「権利を勝ち取る」ということに強いリスペクトをしたい人々なのかあんまりローレンツ先生のような穏健派クローゼット族のタイプは最近ただ高評価されているだけではないのでしょうか。なんか最近のウィキペディアではローレンツ先生も「セルロイド・・・」の監督・製作者のロブ・エクスタインもジェフリー・フリードマンについての記事も載っていません。以前「追憶」でリサーチした時はウィキペディアで主にローレンツ先生のキャリアを知った記憶があるのでなんか釈然としないです。「セルロイド・・・」と他でアカデミーのドキュメンタリ賞を撮った監督&製作コンビは最近じゃ反ポルノ運動活動家で元ポルノ女優リンダ・ラブレースの伝記映画なんかを手掛けていて、よりメジャー化していますが、本来LBGTだけではなくもっと広汎なサブカル系+リベラル系の方面でも活躍したかった人達だったのかも。たいしたことじゃないかもしれないし細かいコト詮索してもしょうがないけどね・・・
ラッキーセブンで簡単に終わろうと思っただけだったんだけど
特に最近の米国LGBT系の世界のマニアックさにはズブの素人にはうっかり立ち入れない所がありまして、難しかったぁ。これじゃ性的マイノリティを認めるということは、俺らが「業界の先人の教え」として金科玉条守ってきたこともひょっとしたら解体しなきゃなんないの? それだとさすがに困る(涙)って「ゲイじゃない」映画の作り手たち(そして彼らは皆その当時インディーズなトコに居た)が不安を覚えたのも無理ないわな。・・・結果としてそれしか言えないくらいディープだったよ。次回からはまた女の子の話に戻りますっ。