だって僕らはゲイじゃないんだ④ 「レザボア・ドッグス」(92)

レザボア・ドッグス [Blu-ray]

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 あ・れ・もゲイ、これもゲイ、皆ゲイ、きっとゲイ♪

 いきなり松坂慶子サマの名曲替え歌をして何なんですが、セルロイド・クローゼット [DVD]って映画を観るとLGBT系のヒトたちの映画の観方のある種特徴を語るには上記の替え歌詞がぴったりじゃん、って思ってくれるかもね。日本のBL萌えの女性たちと同様に米国のレズ女性たちは(例えばヒッチコックの「レベッカ」のように)普通の観客なら思いつかない映画に女同士の恋愛を思い浮かべて鑑賞するようです。彼女たちの一人が「(製作者側が何と主張しようと)私達は好きに解釈して楽しむものよ」等と発言していたのが印象的です。それを踏まえて、「レザボア・ドッグス」冒頭の有名なマドンナの「ライク・ア・バージン」についての珍講釈を改めて思い返すと本当にバリバリ意識的というか「ケンカ売ってんなぁ」感が強烈。90年代に入るとマドンナはゲイ等のマイノリティ層に圧倒的な支持を広げ、フェミニスト界でも「偉大な女王」として象徴的な存在に変貌していった時期なんですが、そんな折「マドンナのライク・ア・バージンってのはさぁ、ありゃ巨根の男とヤッて痛くってしょうがないっていう歌なんだぜ」という芝居(というかコントみたいなネタ)を仕掛けること自体、スンゴイ意地悪な揚げ足取りと言えるでしょう。で、一体主に「誰に?」対してデッカイ青年タランティーノはこうした当てこすりをやりたかったんでしょうか・・・まあとにかくLGBTによるクローゼット族的な映画の観方をブッ飛ばすような展開が始まるんでい! ていう宣言なのは確かだね。

もはや誰が「裏切り者」なのか「カッコいい」なのか「宿命のヒトなのか」がさっぱり分からない・・・?

 お話はギャングが元締めになっている宝石強盗の計画に召集された6人の男たちの「血みどろの抗争のドラマ」、って言っちゃえば済むようなごくシンプルなモノだったりします。男たちはお互いをコードネームで呼び合うことにしMr白(ハーヴェイ・カイテル)、Mr橙(ティム・ロス)、Mr金(マイケル・マドセン)、Mr桃(スティーブ・ブシェミ)、Mr青(エディ・バンカー)、Mr茶(Q・タランティーノ)達は意気揚々と強盗しに行くのですが、何故か完璧に練られたはずの計画が事前にバレていたようで、警察の銃弾に襲われてMr茶は死亡、Mr橙は重症を負ってしまいます。白はひん死の橙をやっとの思いでアジトへ連れ帰るのですが、同様に逃げ帰ってきた桃が「どうやら雇われた六人の中に警察のイヌ(潜入捜査官)居るらしいぞっ」と騒ぎだしたもんですからその後展開が一気に殺伐としていくのでした・・・まあ最初のエピソ―ドがずーっとバカっぽいノリだったので却って怖さが倍増されるといことはありますね。要するに「ミョーに日常的」一昔前なら「庶民的」な男たちなんだもん。これから宝石強盗するっていうのにまるで草野球チームの作戦会議とかガテン系職人が工事の手順をリラックスして話し合っているみたい。コード名をそれぞれ「何色がいい?」って元締めのキャボット(クリス・ペン)が聞くと六人とも「絶対黒!!」と取り合いになったのでMr黒というコード名は却下されちゃうとかさぁ、相当ガキんちょ臭くてバカばっかりなんですよね。それが斬った張ったのやり取りをするのが当たり前の男たちでもあるっていうのが段々に表れてくるのがヤバいのだ。桃役演ってるスティーブ・ブシェミなんてのは(特にキャボットからすると)やたら口ばっかり達者で生意気なコトを云うので「お前の名は桃(ピーンク)だよっ」てバツとして付けられちゃうのですが、「絶対裏切りモノが居るぜ、冗談じゃないぜ!」と叫んだ瞬間からなんだか「切れ者でカッコいいかも・・・」と皆感じだす、ファーゴ [Blu-ray]での誘拐犯役では「とにかく特徴は変な顔よっ」と女の子たちに証言されていたのがウソの様。彼が一瞬、オダギリジョー似に見えてしまうので勘違いしたらマズイだろピンク野郎なのにさぁですが、この「レザボア」のブシェミがかのONE PIECE 74 (ジャンプコミックス)のサンジのモデルになっているとか、かの大物ブラッカイマ―Pによるヒット映画コン・エアー [Blu-ray]アルマゲドン [Blu-ray]なんてのにフィーチャーされたののきっかけだったとしたらそれも勘違いじゃなくなっちゃうし。金(マイケル・マドセン)のパトロール警官に対する仕打ちは超残虐ですが、彼の組織に対する忠誠心は「超真面目で誠実」だとかやたら予想外に見えてよく考えてみたら「想定の範囲内の行動」だと観客は気が付かなきゃいけないのさ、だって皆元々根っから犯罪者なんだし潜入捜査官の橙(ティム・ロス)にとってもそれは了解済のはずだったんだから。なのでMr白のハーヴェイ・カイテルが男気のあるヒーローのように見えるのは彼が一番観客の立ち位置に近くてこの惨状をなんとかしようよと頑張るから、そして悲劇になっちゃイヤだ皆根はいいヤツなのにって行動するからですね。このタランティーノ一流のナイーブさに付いていけないタイプ(この手合いは割と存在する)は「この監督も映画も絶対ゲイだろ、キモい」だし、反対にばっちり付いていけるしそしてある世代以降で戦隊ヒーローやドラえもんが物心ついた時からお馴染みというタイプはブシェミにスネ夫を、そしてハーヴェイ・カイテルのび太ティム・ロスのこと)をかばって我が心の友よーと雄叫びをするジャイアンを見出して盛り上がることでしょう。フィルム・ノワールと関連付けしたいタイプは「じゃこの映画のファム・ファタールの存在にあたるのはティム・ロスになっちゃうのかっ・・・これをBLだとしても・・・やっぱ汚いかも」と悩んじゃうし、あと先週TVで「レザボア・ドックスって結構父子愛の話だと思う」という旨を阿蘇山大噴火さんがマフィアのキャボット父子について発言しておられました。さらにコレは余計な心配ですが「Mrが6人なのは仏教のにおける人間の6つの業からにきているに違いない」と解釈しそうなタランティーノファンの御僧様がもし居たら面倒くさそう。なんかもう、ホントぐっちゃぐっちゃなんですね、だからそこが魅力だと思うしかないのだっ!

 タランティーノモンテ・ヘルマンハーヴェイ・カイテルの三人は「何か」を救ったのかもしれない、その「何か」はよく解かんないけど

タランティーノは「レザボア・ドックス」の脚本をモンテ・ヘルマンという知る人ぞ知るアメリカ映画界のカルトな巨匠に撮って欲しくてヘルマンに読ませたところ「キミが監督しなさいよ」と言われ、ヘルマンとカイテルのプロデュースのサポートにより若干二十代で監督デビューを果たしました。これだけ聞くとエエ話やで終わりそうです。けど私はその後ヘルマン監督の旋風の中に馬を進めろ [DVD]コックファイター [DVD]を鑑賞し、あまりのスーパーシャイネス(超内気)な世界観っぷりに思わずあきれ返った経験をしたので、確かにヘルマン先生に「レザボア」を監督させるのはちょっと気の毒だろって今は思います。LAで舞台の演出家をしていたヘルマンはロジャー・コ―マンPにスカウトされて映画界入りしたのですが、カルトでもあり、また典型的な70年代B級映画でもあるヘルマンの映画は例えそれが「添え物ヒロイン」や「肌見せ脱ぎ女優」であったとしても、ヒロインが存在しなければ絶対に成立しない男の映画になっているので、「男たちの運命を握る女神が似合わないアロハシャツ着て喜んでいるティム・ロス」ではどーして良いか分からなかったじゃないでしょうか。でもタランティーノ青年の脚本を映画化しなかったら、おそらくハリウッド映画の「何か」は前に進んでいかなかったんでしょうね。とにかくジム・ジャームッシュが白黒西部劇を作ろうとしたり、ティム・バートンエド・ウッドのことを思い出したり「ユージュアル・サスぺクツ」なんて映画が生まれなかったのは確かでしょう。