だって僕らはゲイじゃないんだ プロローグ 「90年代のクローネンバーグの映画」

 これからしばらく「とりあえず男」でいきます

 前々から更新が50回を超えたらやろうと思っていました。ただ取り上げる映画によって読んで下さる方々の層がかなり違うということが私にも徐々に解かってくるようになりまして、いざ50回超えてみると「どうしよっかなぁ・・・」という気分も多少あります。要するに90年代のハリウッド映画ってかなり面白かったというハナシになるだけなんですが。自分が20代だったから記憶に残っているだけじゃんか、と思えなくもないですが90年代当時からぼんやりどうしてデビット・クローネンバーグの映画は頑なまでにゲイ要素を払しょくしようと執念を燃やすのさということが気になってまして、でもその傾向はクローネンバーグだけのことじゃなくて他の映画作家(それもハリウッドど真ん中系の人達)の作品にも顕著に表れていることの最近気が付いたからです。いわゆるLGBT(レズとかゲイとかバイとかトランスジェンダーの方々)系+フェミニズムというハリウッドに対してやたらと噛みつく新たな検閲機関にどう対抗したらよいのか試行錯誤していったのが結果として90年代のハリウッド映画の活況につながっていたような気がします。またそれらをいわゆる「ミニシアター」ブームに乗って東京で観られたのが私のような人間にとってもシアワセだったのかもね。

 クローネン・バーグの映画を有楽町のマリオンでよく観たよ

 今考えると、そしてこの映画を観るとおそらくナンでこれが都心の一等地の劇場でかかったんだと驚くかもしれないね、でもそういう時代だったの。私は当時勤務してた会社の同僚と一緒に観に行ってきたよ、お盆の時期でさ、劇場には普段銀座には来ないようなおじいちゃんとおばあちゃんが入ってきて「たまには映画でも観ようか」っておっきな声でしゃべってた。(その時おじいさん菓子パンも食べていたし)私達二人はそれを聞いて「あの人達可哀想だよう、なんで入ってきちゃったの?」と騒いだもんです。だって気持ち悪い虫とか怪物みたいなのがどっさり出てくる内容なんだもん、とはいえ20代の地味そうなOL達がそれを訴えたってその老夫婦には上手く伝わるはずもないですが。90年代のクローネンバーグ映画は若い女子たちに何故か人気がありました、そんでその手の娘たちは皆特別にホラー映画ファンでもなかった。だけどザ・フライ [Blu-ray]とかデッドゾーン [DVD]なんて映画だと若い女の子にも好きだと言うヒトが多かった、ちょっと母性本能をくすぐられるというか、胸キュンなトコがあったのですよ。そうやってクローネンバーグの人気が温まってきた時にウィリアム・バロウズ原作の伝説的カルト文学を映画化するっていうんで、新しいタイプの文芸映画として話題になった作品でした。おかげで80年代のクローネンバーグ映画にちょっとだけあった胸キュン要素は「裸のランチ」には皆無になりましたけどね。

 ガキんちょくさい映画だったような・・・

 「ザ・フライ」や「デッド・ゾーン」の時は何となく「取り上げている題材はB級ぽいかもしれないが、大人の映画だぞっ」というアピールが強かったように思いましたが「裸のランチ」ではそれは感じませんでした。なんかいろいろ出てくるんだけど結局結論は最初っから決まっていたような雰囲気があった気もします、といっても内容殆ど覚えてないんだけど。まあ原作はジャンキー小説ですからどうしても悪夢から逃れて良かったね、ついでに言うと夫婦関係の正常さを取り戻したーいというのが主人公の深層心理にあります、てな感じだったような。そんで映画は原作通りではなくてほぼオリジナルな内容なんだそう。バロウズという人は基本的には同性愛者で、ウイリアム・テルごっこで騒動を起こした奥さんの写真も観たことありますけど、美人かどうかっていう以上に「奥さん自身もレズっぽい」雰囲気の女性って私は当時思いました。実をいうと映画のジュディ・ディビスにもレズっぽい演出はされていたんですが、圧倒的に「男女」としての夫婦っつー表現だったと思う。正真正銘のセックスレスだけど知的なお友達夫婦でジャンキー、みたいな表現のほうがひょっとしたらもっと大人っぽい雰囲気の映画になっていたかもしんない。クローネン・バーグなんかより「真っ当なゲイ」であるガス・ヴァン・サントも本当は「裸のランチ」を映画化したかったそうですが駄目だったんだってさ、バロウズをゲイ系の人びとから取り上げて周到にゲイ要素を排除した所為なのか、なんか特撮やクリ―チャ―が思いのほかガキんちょくさいのかなぁって少し興ざめしたのだけなんだか覚えています。

ヘアに惑わされちゃ駄目だよっ!

 コレも有楽町マリオンで「ヘア無修正の成人指定」てんで公開されたの。劇場でさあ、クローネンバーグ映画ファンの20代の女の子たち(確かオーバーオールにローファー履いているような娘達だった)グループと文春や新潮を握り締めてやってきた中年サラリーマンの群れが一緒に並んでるの。オジサンの中には若い女の子が多いのにちょっと怯えてる人がいておっかしかったなあ。で「裸のランチ」よりも面白かった、少なくとも退屈な感じはしませんでした。原作のJ.Gバラードはバロウズの信奉者だったけど同性愛者ではないし、世代や物事や社会に関する考え方もよりクローネンバーグに近いですからまあ普通に相性良かったってことでしょう。しかし男と女、男と男等ハダカや薄物でくんずほぐれずやっているというのに、ひたすら冷たくて寒い、痛そう、怖いってゆうのがてんこ盛りの映画でしてこれにエッチな感動を覚える方はかなり奇特にタフな神経の持ち主だわさ。その所為なのか、映画の途中で文春かなんかを握り締めていたオッサンの一人が出ていきました。きっと頭にきちゃったんだね(笑)