- 出版社/メーカー: 角川映画
- 発売日: 2004/11/26
- メディア: DVD
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「振られても・・・」のカテゴリー、追加します
ここの所、子供が中学進学の準備でなにかと忙しく、DVDさえも観る暇がございません。その所為だからという訳ではないのですが、この映画(それとあと一本)紹介するのをうっかり忘れていたのでこの機会に取り上げてみることにしました。どっちも、恋愛ものというより、ヒロインがストーカーに変質するサイコちゃんバナシだったりしますので、どこか他のカテゴリー作って・・・などと気にしていたのですが、そもそも「振られても・・・」の一発目が恐怖のメロディ [DVD]なので、我ながらトンチンカンですね。でもこの「妻は告白する」や次回取り上げる予定のトリフォーのヤツも製作された時代性の為か、何となしにここまで一途に想い続けられる女性って素晴らしいし、そんな彼女は美しいっみたいな主張が見え隠れしてますが、果たして昨今のアラフォー、アラサ―女性たちには通用するんでしょうか? 私自身はこの手の映画の感想で「ここまでやると観ていて気持ちいいし、スカッとするよね」という旨をかつて述べたところ、「うそぉ・・・怖い映画じゃん」と女性の友人に引かれてしまいました。
混沌としていた(としか思えない)日本の60年代
「妻は告白する」の劇場公開は1961年、同年に以前とりあげた「女は二度生まれる」も公開されていて若尾文子演じるヒロインが戦災孤児という設定も二作品とも一緒。なのに役柄といい、ストーリー設定の違いといい本当に二作品とも同じ時代(しかも現代を舞台にした)の日本映画なのかい? といいたくなる程決定的な違いがあります。「女は・・・」の役は枕芸者で「妻は・・・」が横暴な夫に虐げられている人妻、という点だけでは階層は違っていても不幸な運命に逢う美女ということには変わりないかもしれませんが、「妻は・・・」の滝川彩子の場合はあくまでも薬剤師として経済的に自立したかったのを、夫になる亮吉(小沢栄太郎)に手籠めにされたものだから諦めて結婚しなくちゃならなくなった女です。つまり「女は・・・」の小えんが戦前の日本女性のある種の典型を表現しているなら、こっちの方は「戦後の主に専業主婦」を代表しているといってイイかも。ついでに言うと戦後の日本で専業主婦が共働きの主婦の数をようやく逆転するようになったのは70年代に入ってからで、1961年時点では「大卒の奥様で夫が大学助教授」なんてのは立派なセレブ夫人の部類に入ります。生活費を夫から半分しかもらえないからって、きれいな着物は買ってもらってるし休日には夫婦一緒に登山のレジャーなんてのにも出かけてるわけですから、傍からでは酷い結婚生活には見えません。寧ろこの夫が異常なのはせっかく妊娠したのに堕胎を要求したり、自分の家に製薬会社の営業マンである幸田(川口浩)をわざわざ引き合わせて浮気を疑ったり、多額の生命保険に自分で入ったくせして妻に「俺に死んで欲しいんだろう」と嫌味を言ったりすることでしょうか。一体何がしたいんだコイツはって感じですが、夫役が小沢栄太郎というのが、この役柄を演じるには「あまりにもジジイ過ぎる」というのが困ったところというか(小沢栄太郎じゃ助教授どころか大学の学部長クラスには見えるよ)、現代の観客には説得力を与えないのかもしれません。以前TVブロスを立ち読みしていた時に「妻は・・・」のDVDを取り上げていたコラムがあって、三十代くらいと思われる男性の執筆者はこの滝川夫妻の結婚のなれ初めについて観ているのに意味をまったく理解していなかったのに呆れましてつい「こんなにバカでも原稿料貰えるなんて心底羨ましい」と憤った経験がありますが、やっぱり凡ては「いくら何でも夫役はもう少し若い役者じゃないと、若尾文子の悩みが理解できない」ということに尽きるのかもね。「好色なジジイに囲われている美女」というのが若尾文子の当時の当たり役の一つだったのでしょうがないんですが、滝川の旦那の言動は「モテないガリ勉のインテリが美人妻を貰ってテンパっている」だし「結婚生活の義務については放棄していいとこ取りをしたい未熟な夫」なので年寄りの小沢じゃツライ。(彼自身の演技は頑張ってるだけに)「妻は・・・」は70年代になるとTVドラマとして何度がリメイクされていますが、それ以降はこの手のメロドラマはあまり出現せず、次第に雑誌やTVの奥様ワイドショー等の「人妻の浮気告白」特集に取って代わっていくのです。60年代の日本は混沌としていたんだなあって思える典型的な映画のひとつなのかもしれません。
「間男」の幸田が卑怯者呼ばわりされるのは妥当だろうか
とにかく何やかんやあって(複雑な裁判劇かつ心理サスペンスなので)、夫殺しの疑いをかけられた彩子は最終的には裁判で無罪を勝ち取り、晴れて幸田と結婚しようかという段になったのに最終的には幸田に拒まれてショックで自殺してしまいます。幸田の元婚約者(馬淵晴子)は自分を振ったということより、彩子を拒絶したことに腹を立て「一番卑怯なのはあなたよ」みたいなことを言って詰るのですが、そこまで言われるほど酷いことしてるか? 俺って感じもするのだ。それどころか最後は幸田に計画殺人の疑いがかけられる所で映画終わるんだもの、幸田と彩子はずーっとプラトニックな関係で幸田は「間男」ですらなかったのにさ。監督の増村保造っていつも女性描くことに関しては凄いヒトとしてずーっと有名で若尾文子主演作品をはじめ大映映画の屋台骨を支えてたんですが、その反面どの映画もなんだかぶっ飛んでいるというか、いきなり決めつけ激しいというか、「ちょっとそうゆうのってどうなの? 変じゃね」等という批判(大島渚がかなりやったそうです)もありました。でも私世代になると増村保造といえばかの「大映ドラマの父」で大映テレビ ドラマシリーズ スチュワーデス物語 DVD-BOX 前編なんかもやってたって方がインパクトありますけどね。というわけでこの映画も推して知るべしです。脚色を担当した井出雅人はおそらくこのラストに不満あったのではないかと思います。なにせ死んだ私の師匠(下飯坂菊馬って言って井出雅人の弟子だった)はそのように感じていたみたいでしたから。でも師匠の生前は「妻は・・・」についての話題とか恥ずかしくてできなかったので細かいことは聞いていません。