ぶらぶらする女② 「旅の重さ」の高橋洋子

 私自身は70年代を代表する映画のひとつって言っても良いとは思いますけど

 60年代後半から70年代前半にかけての日本映画、特に角川映画が本格的に進出する直前までの時代のやつは今でもあんまり興味がありません。これは私ぐらいの世代のオンナにとってはごく当たり前のことでありまして、むしろ現在のアラフォー(団塊Jr)あたりのカルチャー系女子がレトロ感覚で日活ロマンポルノに注目してたりするのを目撃すると正直「うぇっ、気持ち悪・・・」って思います。この「旅の重さ」あたりまでなら、私の中学時代の友人も結構感動しててこの映画の話題をひたすら私に振ってきたし(当時私は完全なアニメヲタクだったのであんまり聞いてあげられなかったが)、今観ても授業の教材として今どきの女子大生あたりにも積極的に紹介した方がいいよ(最近の女子大では映画についての授業があるそうだ。たぶん女性学かなんかの絡みだと思うけど)ぐらいの感動はするのですが、この手の「70年代日本映画」にアレルギーがある女性に言わせると、「70年代映画って要するにATGでしょ、ATG映画って内容は皆辛気臭くってつまんないんだけど、売り出し中の若い女優が必ず脱ぐからオトコ達が観に行っただけじゃん」ということでハナシは終わってしまいます。まあ、それだけ日本映画に若い女性が関心を持とうとしなかった時代がついこの間まで続いていて、そうゆう雰囲気も思いっきり濃厚な映画ではありますが。ただし、当時のベストセラー小説を映画化した松竹映画です、主演のオーデションで一位、二位になった高橋洋子秋吉久美子が鮮烈なデビューを飾っていますし、何より一千万円の予算と謳われたATG映画よりはカネもかかっていそうです、多分。

 「お遍路さん」なら若い女の子一人でも大丈夫・・・って四国のおばあちゃんは送り出すようだ

 そうらしいです。もっとも「若い女の子のお遍路だと結構セクハラや痴漢等の被害もあるらしいぞ」という男のヒトの意見もあるんだそうですが。しかしおばあちゃん達に言わせるとそもそも「お遍路」なんつー行為は生きる上で凄い重荷を抱えている人間のすることだから、質問等はスルーしてただ見守っていくんだそうだ。主人公の少女(高橋洋子)は正式なお遍路ルックにはなりませんが、ノーブラに白いTシャツ(というよりか学校の体操着だろっ)に白のコットンパンツ、麦藁帽というよく考えたらトンデモナイ恰好で旅をします。でも道中はほぼ連日野宿だし、川や海に入ってパンツ一丁で水浴びするだけだから臭いし、見た目の可愛さに騙されて乗っけってやるトラックの運転手にはその臭さに辟易してマジ切れされてしまうくらい。少女は人懐っこいのようにみえて、急に一人になりたがったりするのですが(広島から来た被爆症治癒を祈願して一緒に行こうと少女を誘ってくれるおばさんのお遍路さんからこっそり逃げちゃったりする)、実をいうと彼女は中学の時から幻聴(精神疾患の予兆ぽいですね)に悩まされている早熟な高校生で、あまりに辛くてママ(岸田今日子)と住む家を置手紙ひとつ残して飛び出してしまったからなのさ。母子家庭らしい少女の家にはママの愛人も出入りしていたりするので、彼女としてはかなりストレスが溜まっていたようなのですが、それよりも早く大人になって自分の居場所を見つけることに精一杯。そのせいか国太郎(三国連太郎)の旅芸人一座にくっついていったりして、次第に無茶苦茶やり始めるのですが。

 簡単に「昔は良かった」で済む映画じゃないのかも

 で、お話はともかく、私がしみじみ感じたのは「なんかこの時代の映画ってちゃんと撮ってるんだなぁ」ってこと。まるでマニアックな映像好みのオッサンような感想に我ながらびっくりしたよ。でもそういえば小っちゃい頃は気の利いたTVのCFでも斉藤耕一風映像の廉価版があふれていたような気がしてきました。でも本家はやっぱ違うね、ヒロインが裸で砂浜で遊んでいるところとか、政子(横山リエ)と一緒になって泳いでいるところとかさ。この頃から映画の中で「女優が裸になる必然性」なるものが議論されるようになり、前述の「辛気臭い映画でも若い娘のハダカ観られりゃいいんでしょ」という意見も出てくるのですが、撮る方に腕が無けりゃ「必然性の無いハダカ」なんて撮れないということもこの映画観るとよく解かります。秋吉久美子も本名のクレジットで出演しているのですが、漁村の坂道を段ボール抱えてただ歩いているだけの姿が本当にトンデモナく可愛いから観てごらんなさいって、驚愕しますから。賭けてもいいよ、これだけ可愛い女の子のロングショットは今どきのアイドルのMVに出てくることまずないしね。斉藤耕一監督の映画については70年代にブームを起こしてエモーショナルで凝った映像だからドラマツルギーは弱いのが難点だったということだけ以前から知っていたのですが、少なくとも「旅の重さ」では(漫画やTVドラマに慣れきった私ら世代には)全然そんな気しません。何より高橋洋子のビジュアル戦略は「百万円・・・」の蒼井優と比べても、ほぼ百%完璧と言っていい。もう外見は「歩く貞操帯」で、内面は「心の中に修羅を抱えた鬼女」という演出が明確に展開されております。だいたい意地悪な旅芸人一座の女に髪引っ張られたぐらいでどうしてあんな超ロングアフロになるんだっつーシュールな場面もあるしね。今どきの若いギャルが観ても「主人公が思ったより危ない目に合わなくてよかった」という感想を書き込んだり、「レズ役の横山リエって他にも出演作あるのか?」と検索する人間がいたり、「もしも独り暮らしの俺の家の前に行き倒れの若い女の子がいたら・・・やっぱ桃の缶詰は常備しておくべきなのかっ」と妄想するヤツがいたりと、なんか観た後に皆さんザワザワするところがあるみたいなんですね。つまりは名作(クラッシック)てゆうことなのかな。

 「桃娘」というのは「百万円・・・」でも実際にご当地キャンペーンガールの名前でも存在しますが、ロリコン系のエロ小説でも同タイトルがあるようですね。その他にもコミック等で「病気で倒れた女を男が看病するとき缶詰めの桃をいそいそと食べさせようとする」というエピソードを読んだことあるぞ。まあすべては明治の桃缶から始まったということかいな。(そんなわけないか)