何故この映画でオスカー(助演女優賞)なのか
・・・という評判が今もって日本の映画ファン(主に男性中心ですが)から聞こえてくるので有名です。今をときめくラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、ケヴィン・スペーシーなどの大スターが勢ぞろいなのに(といってもラッセル・クロウにとってはこの作品で世界的スターとしてお披露目みたいなものでしたが)何故キム・ベイジンガ―みたいなトウのたったオバサンがさあ・・って意地悪目線がありあり。ナイン・ハーフ(1986)で有名になったので、もっと彼女に対する潜在的なエロ支持が高いと思っていたのですが日本人の男子にとってはそれも「やたら自己主張する生意気な女」にしか映らなかったみたい。そういえばナイン・ハーフって大騒ぎしたのはちょっとバブリーなOLとかギャルな方たちばかりでしたねー私だって1980年代のTVドラマ「男女7人秋物語」で紹介してたナイン・ハーフしか知らなかったしなあ・・・エロだけど自立した感じのオシャレさんぽかったので女性受けがすごく良かったのが若い時の彼女。で、日本だとこういう人は当時男受けが薄かった・・・
このビジュアルじゃあ、良くはないっすよ決して・・・
あまりにも理不尽だと感じたのか、題名は忘れたのですがある映画のファッション関連本(男性が書いた)で「キム・ベイジンガーがオスカー獲れたのは、彼女の登場シーンに出てくる黒のロングコート姿が良かっただけ」つまりこの映画で使用した彼女の衣装のセンスのおかげとまで断じている始末です。でもあの黒(顔回りに白い毛皮がトリミングしてある)のコートのキム・ベイジンガ―のビジュアルは決して良くはないです。彼女の鉄板といったらむしろノー・マーシィ 非情の愛 [DVD]などでも出てくるピンク系のボディコンドレスでありまして、「服着ていてもまるで裸みたいな」けだるいパステルカラーの恰好がお洒落かつエロだったんですよ。そもそも50年代を舞台にしているのにヒロインのルックスが「40年代の白黒フィルムノワールを代表するヴェロニカ・レイクのそっくりさん」でヒロイン演る彼女の方は「エマニエル夫人ブーム以降のハリウッドで一時代を築いたセクシー女優」であったわけですから全盛期から顔より肢体(スタイル)で勝負していたのにも関わらずここの映画ではクローズ・アップで真っ向挑まねばなくちゃならない・・・ここまで懐かしレトロ趣味が無差別にぐっちゃぐちゃだとさすがに単にダサいだけかもしんない、悪いけど。おまけに映画は原作と比べて物語をさっぱりさせちゃった分、キム・ベイジンガ―の役割がプロット上では軽くなっているので「別にいてもいなくてもいいじゃんこのオバサン」と日本の男子の間では思いがちなのです。・・・以上のこと言ったらひょっとしたらアカデミー会員の爺さん方はありえねぇ!と激怒するかもしれませんが、文化の違いってそういうものなので。・・・せめて「彼女も老けて顔デカくなったなあ」と思われないような、ビジュアルの戦略がもっと必要だったかも。(またガイ・ピアースがえらい小顔だったしなあ、あの時)
ここまでやらないと日本人には理解できない
さてこっちは先ほどの「LAコンフィデンシャル」の不評とは正反対の支持を受けているキム・ベイジンガ―がいます。今度の役は高校教師で幸せな奥さんなのに、いきなり暴漢に拉致されあばら家に監禁。でも彼女は理科教師なので科学全般に強いんですね、あばら家に電話回線が残ってるのを発見、とにかく誰かと回線が繋がって助けを求められるかも・・・えーそんなことできる? できる! 携帯電話につながっちゃったぁ!・・・しかもつながった相手は血の気が多めのせっかち青年(クリス・エバンス)だったんで街中が大騒ぎ、とスピードでぶっちぎるB級活劇の快作です。この映画でのキム・ベイジンガ―の存在はファムファタールの典型的要素が凡て揃っていると言っていいでしょう。まず危機や何かを背負っていること、助けを求めて男をひっかけること、そして何かしら男たちが彼女に騙されて振り回されることです。「騙される」というのは決してファムファタール自身が意図的に彼らを騙そうとしているわけではありません。ご都合過ぎかもとも取れる展開のためか、却って「この奥さんがクセ者で本当は悪女じゃねぇ」とちょっと思いながら観ていると、いきなり暴漢をナイフで切りつけて動けなくしちゃう! 理科教師だから人体の構造にも詳しくてカエルの解剖みたいにされたごとく大男は「お前この俺に何をした・・・」とぶっ倒れます。対して「ごめんなさい・・・」とおろおろして言い訳するキム・ベイジンガ―は最高です! そして後は自分と同様に悪党警官(ジェイソン・ステイサム)たちに捕らわれている夫と息子を取り返しに行くんだぜ、強ぇー! 「家族を守ろうとする男性は一般市民であっても力強い」が「家族を守ろうとする日頃から家庭とキャリアを両立させている母親」に代わっただけで、得体のしれない度が何倍も跳ね上がり、クリス・エバンス、ジェイソン・ステイサム、そして刑事役で名優のウィリアム・H・メイシーといった男たちが右往左往するんで初めてこういうのをファムファタールっていうのかしらんと現代の日本人は理解するのではないでしょうか、つーか米国でも実はそうだったりして。