何だか不運な女④ 「パリの空の下 セーヌは流れる」のブリジット・オーベール

巴里の空の下セーヌは流れる [DVD]

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 日本人は大好きなジュリアン・デュヴィヴィエの映画

 フランス映画・・・結構観ている方だと思いますが、本当はあまり得意じゃない。特にフランス映画が嫌いという訳じゃないのですが「フランス映画が好きな人」が若干苦手で「ハリウッドよりフランス映画の方が趣きがあって好き」などど言おうものならその人とはあまり映画のハナシをすべきではないかも、とさえ思ってしまいます。(ひょっとしたらイマドキの女子のなかでは私のようなタイプは多いかもとか思っているのですが、違う? それともやっぱり未だにフランス映画はお洒落女子には鉄板アイテムなのかなあ、だったらスマンネ)何が苦手かというと、フランス映画好きなヒトで幅広くフランス映画全般を知っている方が少ない上に、やたらとフランス映画について熱く語る人に限ってごく一部のフランス映画しか観ていないからです。こういうケースはプロの映画関係者のなかでもありますよ。以前私は映画のシナリオ学校に通って、そこのプロの先生の一人に学校卒業後も指導を受けていましたが、何せ師匠は大正生まれで戦前のフランス映画に思い入れがあり過ぎるためか、ヌーベルバーグ以降のフランス映画についてはとんと興味がなかったようです。シナリオ学校でもある若い女子の生徒に「今まで君はどんな映画を観てきたんだ(こんなプロット書きやがってという意味)言ってみろ!」と怒って「汚れた血っていう映画です・・・」「何だそれは、全然知らん・・・もっと君は今村昌平とかの映画でも観て男と女のことを勉強しなさい」・・・ってやってました。かくいう私も変なプロットを持っていくと「君はぺぺル・モコの映画も観ていないのか! あれを参考にしてイチからやり直せ!」・・・ちなみにぺぺル・モコというのはデュヴィヴィエ監督の戦前の大ヒット映画、望郷 [DVD]の主人公の名前です。このようなエピソードで私がフランス映画が苦手っていう理由がお分かりいただけるかどうかはともかく、面倒臭そうってのは伝わりますよね、だいたいデュヴィヴィエって発音も表記も面倒なんだし。でも日本人は昔っからこの人の映画が大好きで本国フランスではそれが不思議がられておりました。「パリの空の・・・」をよく観ると登場人物のなかに日本語を勉強している女子大生が登場しています。監督も俺には日本人のファンがいるって内心嬉しかったんじゃないでしょうか。戦後も長く活躍しましたから来日してどーのこーのとかいう話が残ってたらいいのにね。

 でもフランス映画で初めて面白いって思った映画なの・・・

 実はそーなんです、私たぶん十代のときにTVで母と妹と弟の4人で全員手に汗握りながらずーっと観ていた記憶があるもんね。6人の主人公(男3人女3人)のエピソードがパリという都会のなかでランダムに繰り広げられ、ラストに向かって収れんしていきます。ヒロイン役のブリジット・オベールは田舎からパリへ家出同然でやってきた20の女の子で前述した友人の女子大生のところに居そうろうし、ファッションモデルでアルバイトしている女子大生が惚れているサエナイ医者の卵が男の主人公の一人だったりするという具合。他にも野良猫にやるミルクを求めて街をさまよう老嬢や、ストで工場にこもる労働者のお父さん、乱暴な父親や近所の男の子に振り回される小学生の女の子、危ない芸術家、となっております。この前久しぶりに観たのですが、今みるとこの時代のフランス映画にしてはせわしなく物語が進み、演出もやや事務的で単調かなあと思える部分もありでした。ただそれでもいかにも「フランスだなあ」と感じるエッセンスは多々で、70の老嬢に向かって「子供でも産んだらお金を恵んであげる」と言い放つざーます奥様にはビックリします。どっちかっていうと男どものハナシよりも女3人(特に小学生と老嬢)のバージョンが秀逸で、子供から若い娘へ老人と女の人生って本当大変だなあとシミジミしちゃうから不思議です。ついでにいうと、映画を観たウチの妹は「おばあちゃんが少し幸せになって良かったね」というような感想を言っとりました。お前そーいうことでまとめていいのか! っていうのが映画のラストにはあるのですが・・・。

 日本ではカリスマ、フランスではヌーベルバーグの「敵?」

 デュヴィヴィエの映画では他にも「巨人ゴーレム」という映画が日本の大魔神シリーズのヒントになったり、ジ・アルフィーの名曲「メリーアン」は「わが青春のマリアンヌ」という戦後のドイツ合作作品にインスピレーションされたそうですから本当に日本人にとっては「血肉化」するほど影響を与えたといっても過言じゃないでしょう。しかしフランスでヌーベルバーグの運動が起こった時、徹底的に叩かれた旧世代の映画作家の代表がジュリアン・デュヴィヴィエでした。「パリの空の下・・・」を観る限りなんでそこまでって気がするほどトリフォーは悪口言ってた。(有名なカイエなんとかって雑誌に載った論文も読んだことあるけど結局わからなかったなあ)まあ私自身も戦前の「望郷」を観たときは劇場で寝てましたけどね。(別に師匠に反抗したわけじゃないと思うんだけど)「パリの空の下・・・」ではブリジット・オルベールが占い師に手相をみてもらったりする場面があって、それがトリフォーの恋のエチュード [DVD]のエピソードにも似たような形で再現されていたり、同じくヌーベルバーグのシャブロルっていう偉い監督の映画でもなんだか「パリの空の下・・・」のブリジット・オベールのごとく幸せな結婚を夢見た女の子が残酷な運命に見舞われるっていうプロットの映画があるってハナシを聞いたことがあります。当時の若者たちはきっと「この程度なら俺たちの方がずっと上手くやれるぜぃ」思ったのかもしれません。で、当のデュヴィヴィエ先生は嫌われてもクサることなく60年代ぐらいまではバリバリ現役で活躍しておりました。私はレイモン・エルマンチエが演っている「危ない芸術家」が最初無声映画に出てくる怪物かってかんじで登場し、どんどん普通の変態、さらにごく普通のいじけた男に成り下がっていくところで感情を爆発させる演技と演出に結構感動したりするのですが、これは私がフランス映画に無知だから変に感心するのか、もうこういう演出でごく簡潔に「人間の異常心理」を描くのことが映画でも不可能に近いからなのか、どっちなんでしょう。もっと映画に詳しい人ならわかるのでしょうか。